メディア・クエスター

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カテゴリ: 私見

先週インタビューさせていただいた津田大介さんが、「ツイッター創業物語」をおすすめしていました。
創業物語

僕は巨大IT企業のノンフィクションが大好きです。

グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ
スティーブン・レヴィ
阪急コミュニケーションズ
2011-12-16

フェイスブック ---子どもじみた王国
キャサリン・ロッシ
河出書房新社
2013-05-24


何が魅力的かというと、世の中を変えるサービスを打ち出した人々の内幕の人間模様が実に生生しく描かれているんです。ソーシャルの定義やコミュニケーションのあり方を一変させた企業の経営者がどこまでも人間臭かったり、アナログなところに妙な拘りがあったりするのってとってもツボです。

大抵主人公は偶然チャンスを得た天才的な創業者で、多くの人が価値に気付かない中、数人の協力者が天才を盛り立て、さまざまな壁を超えて圧倒的なサービスの浸透力で勢力図を塗り替えていく。でもそうした足元ではメンバーの力関係も目まぐるしく変わったりしていて、非常に人間的な衝突とか・和解とかを見ることが出来ます。

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(flickr/Anthony Quintano)

Twitterは特に好きなサービスなので期待ですね。

ところで、これらのドキュメンタリーを書いているのは、アメリカの著名なITジャーナリストが多いです。「ネット覇者の真実」は「WIRED」誌編集長のスティーブン・レヴィですし、「スティーブ・ジョブズ」のウォルター・アイザックソンは「TIME」誌の編集長をしてたこともあるジャーナリストです。彼らの長年の経験とそれに裏打ちされた深い洞察、そして関係者との広大な人脈が詳細な物語を与えてくれるのでしょう。サービスがローンチされる瞬間や念願のIPO前夜など1つ1つの局面に実際に立ち会っているかのような気分にさせられます。
いつか僕も、そうした文章をかけるようになりたい、と思うわけです。


日本だと、こうした創業物語は経営者自らが書いている印象です。古くはホンダとか京セラの創業物語は有名ですが、最近だとDeNAの南場さんも去年「不格好経営」を書きましたし(そしてやたらと配っていました)、サイバーエージェントの藤田さんや、おそらくもっとも有名なホリエモンさんも自著をどんどん書いてます。
不格好経営―チームDeNAの挑戦
南場 智子
日本経済新聞出版社
2013-06-11





これらを出版しているのは日経新聞だったり東洋経済新報だったりダイヤモンドだったり経済系のメディアですが、そうした会社が名物記者に任せてノンフィクションを書いたりしないんでしょうか。(そのあたりの業界の常識を、いまいち知りません。)本人では書けない会社・サービスの物語ってあると思います。

さて、いま日本で最もホットなIT企業といえば間違いなくLINE株式会社でしょう。

「LINE」サービス開始からわずか3年足らずで4億ユーザー突破という、日本企業において前例のないペースでグローバル展開が続いています。
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(公式資料より)
関係者に綿密に取材して、LINEの誕生秘話を本にすると間違いなく面白くなると思います。色々な意味で、他の国内外のメガベンチャーと歩んできた過程が異なるのです。

LINEというサービスを生み出したのは元NHN Japan。NHNは韓国の検索最大手企業です。ここの創業者の李海珍という人が自ら日本にきて進出を続けていましたが、5,6年もの間失敗の連続だったそうです。

そんな中、東日本震災が起きてコミュニケーションサービスの必要性を痛感して、ネイバー社内のコミュニケーションツールを改良して1か月半で作ったのが「LINE」だそうです。発想そのものはあったものの本当に急きょ作られたもので、事業計画にも書かれてなかったんだとか。
そうしたら爆発的にヒットして、当時流行りつつあったカカオトークや後発のcommを撃破し、日本人の代表的連絡手段として君臨することになりました。

また、現在日本で社長を務める森川亮さんは、テレビ局のエンジニア出身という面白い経歴をお持ちです。南場さんや楽天の三木谷さんのように外資系企業・MBA上がりの実業家とは大分毛色が違います。
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(MdN Design INTERACTIVEより)

はたしてLINEの誕生と成長は偶然の産物なのか、それとも起こるべくして起きたものなのか。必然だったとするならば、それを後押しした社内のカルチャーや、重要な時期に携わったステークホルダーはいったいどうした性質をもつものか。

会社としては、今夏に予定されている上場や、年内5億ユーザー獲得の目標に向かってWhatsApp&Facebookというグローバルの巨人との本格的な競争など、これからがヤマ場だと思います。
そんな近未来を占う意味でも、今こそ重厚なLINE誕生物語が読みたいです。




デジタルコンテンツを配信するピースオブケイクという会社が「note」なるサービスを始めました。

これは一口で説明すると"誰もが自由に表現をして、それに対して自由に有料課金できるサービス"です。

田端信太郎氏などメディア界隈の人々がこぞってこれに登録しだしたので、この流れを解説してみたいなあ……と考えてたところ、
「そうだ、ネットメディアの課金の流れは、進撃の巨人になぞらえて説明できるんじゃないか!?」と謎にひらめいたので今回の記事を書いてみました。

巨人=ネットメディアによる進撃の歴史

いいかんじの出版
(電子書籍情報まとめノートより)

1990年代後半まで、出版・新聞業界は平和に暮らしていました。
競争が激しいとは言っても、戦う相手は見えていて、慣れ親しんだものでした。
ところがそこにネットメディアという全く異種の"巨人"が突然あらわれたのです。
巨人の大群
(「進撃の巨人」アニメ版より)
これらはすべて無料であるとか、分量に制限がないなど、それまでの紙の出版業界の常識が全く通じないもので、(=巨人に知性は通じない。)とにかく大量に生まれました。
それでも最初は質が低かったり、ばらばらで有益なものが探しにくかったので脅威は薄かったのですが、情報をうまく編集するメディアが沢山登場して状況は一変します。
例えば「Googleニュース」さえ見ると、最新のニュースの一覧が読み比べられるという状況になりました。新聞社が手間隙かけて作ったコンテンツはアルゴリズムによって無料で並べられ、そちらに読者が流れたのです。
FacebookやTwitterによるシェアも本質は同じです。
こうして新聞・雑誌のコンテンツをネットメディアは駆逐していったのでした。
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(電子書籍情報まとめノートより)

そこで新聞社のオンライン版はそのコアとなるコンテンツ部分に”課金の壁”を築き、そこで暮らすことにしました。
日経新聞課金の壁
(日経新聞電子版より)
こうすればGoogleニュースにまわされることもありません。しかしこれによって得られる収入は今まで紙で得ていたものなどとは桁違いに少ないです。とても大勢を食わせていけるほどではない……。

調査兵団=既存マスコミの電子版による反攻

壁外調査
(「進撃の巨人」アニメ版より)
こうした状況に直面して、既存媒体の電子版が外の世界、すなわち無料文化とテクノロジーが支配するネット世界に飛び込んでいく動きもあります。
読売新聞社「発言小町」などはCGM(ユーザーがコンテンツを生成する場)として先進的な動きといえるでしょう。朝日新聞社も社内ベンチャーの「朝日新聞メディアラボ」を立ち上げ、講演会や勉強会を多く開催しています。
これはまさしく調査兵団ですね。しかし現段階での成果では、壁の中の業界人をすべて養うには程遠いです。

突破された「ウォール・動画」

3つの壁
(「進撃の巨人」1巻より)
さて、進撃の巨人の世界でも「3つの壁」があるように、メディアの世界にも課金の壁は多段階あります。
まず、様々なアダルトコンテンツが、動画という分野で既にネットコンテンツの課金に成功していることは周知の事実です。
ニコニコ動画も、プレミアム会員200万人以上を数え、繁盛しています。2005~2007年ごろに端を発したこうした流れにより、まずは「動画の壁」は突破されたといってよいでしょう。

主戦場となる「文章の壁」

次なる壁は「文章の壁」です。ネットの文章にお金を払えるのか?ということですね。
こちらに関しても、いくつかの成功事例が出つつあります。
例えば「vorkers」のような転職サイト。転職経験者の生の声が、部分的に明かされつつも続きは有料会員登録で、という「課金の壁」に覆われています。
ぼーかーず
(vorkersより)
MyNewsJapan」というサイトにも注目です。広告を一切載せないことで企業の内部批判記事などを有料で配信しています。月額1800円の会員を2千人以上抱え込み、黒字とのこと。

こうした付加価値が高く、集約された情報に関しては「文章の壁」も突破されました。cakesがもともと売り出していた"著名人の発信プラットフォーム"というコンテンツもここに位置づけられるものです。

ところが今回の「note」は、動画・音楽のみながらず文章に対しても個人単位で、自由に課金額も設定でき、その範囲も指定できます。このモデルが成功すれば更に1つ壁が突破されたといえるでしょう。

もちろん個人の発信に課金するという試みは別に「note」が初めてなわけではありません。
動画がはやりだしたのと時を同じくして2006年、有料メルマガブームというのがきていました。

有料メルマガをやめました 我が動員とマネタイズ敗北宣言-常見陽平

しかし上の記事にあるように、これで十分な収益をあげたのはホリエモン氏や佐々木俊尚氏などきわめて限定的でした。「金を払ってでも著名人の文章が読みたい」という読者は少なく、壁は超えられなかったのです。

それを踏まえて、今回「note」がどう壁を突破していくのか、あるいは突破できないのかは注目に値します。続きを読む

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(瀧本哲史先生)

今日は、僕が所属していた団体「瀧本哲史ゼミ(通称Tゼミ)」について書きます。

 瀧本哲史ゼミでは、一言でいうと好きな上場企業を選んでその会社が「買い」なのか「売り」なのか(=投資判断)をプレゼンして、投資家の瀧本先生から評価を受けるという勉強会をします
これが、突き詰めて調べていくことの爽快感を僕に教えてくれました。

しかしちょうど去年の今頃ゼミの存在を知るまでは僕も「株」とか「投資」というとひたすらチャートを追っかけるうさんくさいもの、という認識しか持っていませんでした。
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実際に株のやり方には色々ありますが、瀧本ゼミでは「ファンダメンタル分析」といって、企業の中長期的な経営を分析する手法をとっています。

株価というのは大まかに言うと「その会社が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在割引価値」つまり将来予測に基づいて決まっているので、その予測が裏切られた時に上がったり下がったりします。
そのため、「ニュースで業績が落ちたといわれていたので売りです」とか「会社が出している業績予測によると利益が倍になるから買いです」とか言ってもだめです。それだけならば市場のみんなが気づいていて、即座に株価に織り込まれているからです。

瀧本ゼミでは特に、中小の地味銘柄を調べます。例えばソフトバンクのような誰でも知っている大きい企業は、プロの金融機関(=機関投資家)も多数目をつけていて、それらに情報収集力で勝つのは不可能です。しかし時価総額の小さいマイナーな会社なら、プロは大もうけができないからまだ注目していないこともあります。だから、学生でも特化して調べれば割安な銘柄が見つけられて勝てます。

実際にここでは僕が調べた「まんだらけ(2652)」という企業の発表までの流れを追ってみましょう。

まんだらけとは

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ずばり、「中古のオタクショップ」です。ここ以外では手に入らない手塚治の初版本などが100万円!とかで売られていたりしていて、「金に糸目をつけないオタク相手にしていてしかも競合がいないからめっちゃ儲かっているのでは?」と思ったので、まんだらけの「有価証券報告書」を調べました。

客を増やしつづけるうまい工夫

【図1】
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すると8年連続で売り上げが伸びていることが明らかに。2008年のリーマンショックで、トヨタなどの超・優良企業ですら赤字に陥ったというのにこれは凄いことです。「オタク趣味は不景気関係ない」という知見が得られました。

Amazonでポチる文化が定着して書店という業界が死につつある中で、こうして伸びているのも何故だろう?と思って店舗に赴いてみると、コスプレした女性店員が出迎えてくれました。全店舗で常にコスプレしているようです。
実際に中古品を売るときも、店員さんが無造作に仕分けるBOOKOFFなどと違い、職人さんがじっくり査定します。

まんだらけはこうした実店舗ならでは体験を売っているからこそ、「Amazonでいいや」とならずに客をよびこみ続けているといえます。また、アニメイトなどほかのオタクショップに寄ったお客さんも「まんだらけにもいっておこう」となるため、競合に食われてしまうことも少ないのです。

株価が割安なワケを探る

【図2】まんだらけ株価推移(2005/01~2012/12)
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ところが、優良な経営にも関わらずアベノミクス前までの株価は低迷していました。
ここで僕は「何らかの原因で不当に株価が低くついているので、そのボトルネックが解消されれば株価は爆上げするのでは」と仮説を立てました。

【図3】まんだらけの店舗情報

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そこで全国のまんだらけの出店状況を確認したところ、面白いことがわかりました。
2005年までは首都圏と政令指定都市を中心に出店が相次いでおり、それに併せて株価も上昇。
しかし06年以降は店舗の増床や移転が繰り返されて既存店の売り上げが改善しているだけで新しい店が出ていません。
さて、株価は将来的な利益を織り込むという前提を思い出しましょう。僕は「市場はまんだらけがもう新規出店できないと見越して、将来的に行き詰るのを織り込んでいるのでは?」と見当をつけました。

【図4】自己資本比率推移(2004~2013/6)
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更になぜ新規出店しないのかを調べたところ、経営の安定性を表す指標である「自己資本比率」が07年に急速に悪化したことがわかりました。05年までの新規出店ラッシュのつけで借金がかさみ、以降は財務の建て直しを迫られていたのです。しかし6年以上耐え忍んだ成果から、ほぼ出店ラッシュ前の水準に戻してきました。

ならばそろそろ新規出店が実現し、市場は「まんだらけの成長余地が広がった」として、株価を大きく上げるのでは?と考えて、実際にまんだらけのIR(株主からの質問に答える担当)に電話でインタビューをしてみました。
担当者は公開情報以上のことを話してはいけないことになっていますが、「仮定の話ですが、出店するとしたら場所はどこです?東北?」とか「新規出店できるかできないかといえばできますよね?」と根気よく聞くことで、どうやら2013年度末までに何か大きな動きがある、という感触を得ました。

得られたデータから仮説を立て、いざ発表

こうした調査に基づき、僕は「まんだらけが新規出店で株価爆上げ」というストーリーで2013年6月、ゼミで発表しました。
(この他にも価格付けの巧妙さや競合との立地戦略のうまさ、中古品小売業界全体の動向なども分析して、大体50~60時間ぐらいかけて資料を完成させました。全様が見たい方は【2652】まんだらけ 推奨 買いから)

すると……

【図5】
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2013年度末決算で、物流倉庫の建替えが発表。新規出店ではなかったもののこれはまんだらけの拡大余地を伸ばす材料といえます。日経平均全体が落ちこんでいた時期にも関わらず、これを見越した株価は3300円程度から一時3900円程度にまで伸びました。

しかしこの発表では、最高評価である瀧本先生からの「買い」判断は得られませんでした。「新規出店の確証は得られていない」「本当に出店した地域に潜在的なオタクがいるかの裏づけがとれていない」ことが理由です。

発表時には他にもゼミ生から「在庫の処理はどうしているのか」「実店舗で催されるイベントが集客につながっている定量的な根拠はあるか」などの激しいツッコミが浴びせられました。少しでも発表のロジックに綻びがあったり裏づけが取れていないものに対しては容赦ない場だからこそ、緊張感をもって徹底的なリサーチに臨めます。
完全なド素人から始めて、3ヶ月でこの程度の分析はできるようになったのはそうした環境のおかげです。

幸い、その後2回ほど発表で「買い」の評価をもらったり、ゼミの企画で投資家の藤野英人さんを審査員に迎えてプレゼンする機会をいただきました。
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(藤野英人さんのFacebookより)

こうした投資分析は、簡単な入門書を1,2冊読めばもうすぐに実践できるので、非常に敷居が低く「仮説を立てて公開情報を分析することで、誰も知らなかった事実を発見する」「あくなき姿勢で取材して情報をとる」ことの楽しさを知ることができます。
それによって得られる基礎的なリサーチ能力は、コンサルティングファームの実務などにとどまらず、自然科学における研究や取材活動などインテリジェンス全般のさわりにもなるはずなので多くの人におすすめです。

僕はこの上に「見つけ出した事実をより面白く、たくさんの人に伝えたい」というもともとの気持ちが加わって、ジャーナリスティックなものを志しているこのごろです。

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