メディア・クエスター

メディア・コンテンツ業界に関する発信(海外やビジネスモデルへの言及が多い) 連絡はqumaruin(あっと)gmail.comまで。

カテゴリ: 取材

先月一周年を迎えたハフィントンポスト日本版。順調にユーザ数を伸ばし、健全なリベラルを伝えていく独自の地位を築くのに成功しているように見えます。
松浦編集長に、ハフポスト日本版の未来と彼自身の未来について語っていただきました。松浦さん

もっとライフスタイル系を充実させていく

大熊 月間のユニークユーザが1000万を突破するなど、順調に伸びていますね。1年やってまだまだやれてないと思ったこと、次の1年でやっていきたいことを教えてください。

松浦  まず、この1年間やってきたこと自体に満足していますね。細かくいえばやれてないこともそれなりにありますが。そして次の1年ですが、これまで子育てや働き方の記事は特に読者に興味をもってもらえましたから、今後さらにライフスタイル系を増やしたいと考えています。

大熊 団塊ジュニア世代というターゲット層にうまくリーチできていますよね。しかし何となくハフポスト日本版は、その層に限らず広く「ネット発のマスメディアだ」「新しいメディアだ」と期待されている部分もあると思うんです。
今後、もっと読者の対象を広げていく予定はありますか?

松浦 もちろん、コアとなる読者層は団塊ジュニアですが、じゃあ他は一切無視するといったゼロイチで語れる話ではありません。


著作権の問題やTPPの参加是非についてもハフポスト日本版では扱ってきましたが、これらの記事は共通弁として幅広い世代に読まれました。
どういうコンテンツを出していくかは、さらに双方向にユーザの声を聞きながら届けていきたいと考えています。

大熊 ユーザの声はどのようにして聞いていますか?記事へのコメントが掲載前に検閲されるやり方については、賛否両論ありますが……
コメント
(塩村議員へのヤジに関する記事へのコメント欄)

松浦 コメント欄で読者の声が閉じているのではなく、意見発信の場としていきたいという考えを持っています。ですから、単にネガティブであったり、他者をあらがう意見は載せていません。我々はこれを空間編集と言ってます。
意見発信といってもコメントに限らず、facebookでいいねを押してもらう、そのことで記事がもう一人の読者に拡散されているという形もあります。
そんな風に「読者がもう一人の読者を連れてくること」をやっていきたいです。

データ分析はある種「文学的」

大熊 ハフポスト日本版では、どこのどんな人に伝わったのかなどのデータ分析が盛んだと聞きます。しかし編集部には、出版社出身の方だったり、データ分析のプロではない方も多くいらっしゃると思います。どうやってデータを活用しているんですか?

松浦 大事なのは「何故この記事は1万PVほどウケたんだ?」といった仮説を立てることで、それを主観だけではなくデータを用いてやるだけです。意外な指標に着目して「このポイントが響いたんだ」などとストーリーを導くことは実はある種文学的な要素も必要だと思っています。

大熊 松浦さんご自身は、前職のライブドアやグリーといったIT企業での経験が活きていますか?

松浦   仮説の立て方ではそうですね。いかに客観的になるか。もう1人の自分に見つめさせるようにしています。「なんでこの記事が読まれないんだ?」っていつまでも言っているようではダメですね。

大熊 ハフポスト日本版には個人ブロガーのみならず、新聞社の方も寄稿されています。しかし新聞記者も最初はウェブの作法に対応できず、書いた記事が全然読まれないこともあると聞きました。そこから対応できる人、できない人の違いは何ですか?

松浦   ウェブと紙では、ソフトボールと野球ぐらい、似ているけどルールが違うところもあります。そうした微妙な変化に対応できるかですね。今はメディア全体が変わっている最中でもありますし。

松浦さんは「戦略家」ではなく「戦術家」

大熊 メディア全体の変化を、ハフポスト日本版が担っていく部分も大きそうですね。松浦さん個人の目標は何かと以前お伺いした時に、「よりたくさん人を楽しませることだ」と仰っていました。それは量においてですか?質ですか?

松浦 楽しませ方は色々あり得ます。
重要だと考える事件をレポートする記事の場合、PVとかは二の次で、深く刺さるかどうかが重要です。その逆で、とにかくより多くの人の目に触れることが目的の記事もあります。
私は戦略を立てるというよりも、それぞれの記事について最適な受け止められ方は何かなど、戦術を考え実行するのが得意です。

「適切な戦略は、高度な戦術を不要にする 」の事例

戦略家というのは、例えばLINE社の田端信太郎さんのように「メディア・メーカーの時代だ!」と大きな構想をぶちあげられる人を指します。


「日経を倒す!」と気炎を上げていた東洋経済オンラインの佐々木紀彦さんなんかもそうですね。


一方の私は戦術家で、「どこを攻めるべきか」決まれば、「あの手を使おう、この手も使える」と最大限うまくいくようにして結果を出すのが本分です。

ハフポのこれからの戦術とは

大熊 なるほど!確かに松浦さんは、例に挙げられたお二方とは異質だなあと思っていたんですが(笑)、ものすごく腑に落ちる説明でした。それでは、ハフポスト日本版というメディアが独自に使っている戦術とは何でしょうか?

松浦 「ブランディング」、「ソーシャルの活用」、そして「外から人を呼んでこられる仕組みづくり」の3つだけです。これを組み合わせてひたすらやっていくのみですね。しかも独自ではなく、どこのウェブメディアでも考えられていることです。味付けの差でしかないです。


中でも難しいのはブランディングです。やはりポジティブな空間を作っていきたいと考えていますが、ネットの世界でそれは簡単ではないです。仮に戦術を決める時点で、炎上もありだと決めてしまえばそれはそれでありで、ずっと燃え続けてるキャンプファイヤーならきっと読者も楽しいですよね。でもハフポスト日本版で炎上させる気は今もありません。ブランディング上、その策を取ることを良しとしていません。

2980792339_590b55a6a0_m

大熊 やっぱりネット右翼とか、炎上が渦巻いている中で、リベラルな雰囲気を作っているハフポスト日本版の存在意義はとても大きいと思います。それでは最後に、松浦さんご自身への質問です。松浦さんは最初は人工衛星のエンジニアを務められ、その後8度も職場を移ってます。「BLOGOS」や「WIRED.jp」などメディアの立ち上げ・運営にも多数関わってらっしゃいますが、これまでとハフポスト日本版で決定的に違うことってありますか?

松浦 ハフポスト日本版にはグローバルで共通化されたCMSなど強い仕組みがそもそもあります。ある意味、各国で戦って勝ってきた最新鋭の「ガンダム」をぽんと渡されて、これを操縦して日本のメディアという戦場で戦ってみろというような話です。ガンダムだから出来ることは多いけれど、逆に乗りこなすのは難しい部分もあり、とはいえガンダムなのに撃沈されてしまったら恥ずかしいですよね。そうした「乗りこなす楽しみ」は今までにないものです。

巧みな戦術家・松浦茂樹編集長のもとで、ハフポスト日本版はリベラルなネットメディアとして着実に成長しています。今後その社会的影響力も更に増してくるでしょう。これからも目が離せないメディアです。
(了) 

ネット活用が先進的な新聞社

朝日新聞社は、ウェブへの取り組みが先進的です。MITメディアラボとシンポジウムを開いたり、日本で初めてデータジャーナリズムハッカソンを開いたり。ハフィントンポストと提携し日本版を作ったのも朝日新聞社です。
そしてデジタル版では、7万以上のいいね!を集めたコンテンツ「ラストダンス」を作ったり、企業・研究室と提携してデータジャーナリズムを体現する「ビリオメディア」などに取り組んでいます。
1
先日は大スクープである「吉田調書」を紙に先駆けてデジタル版で公開する手法も話題を呼びました。

デジタル編集部奥山晶二郎記者に、これまでの戦略とこれからの展望、すなわち大手メディアのウェブにおける挑戦を語っていただきました。

有料版に挑戦

大熊 まずは奥山さん自身のことについてお伺いします。初めは紙の記者からのスタートだったと思いますが、デジタルに移ってきてどのぐらい経ちますか?そして、その間に起きた一番大きな変化は何でしたか?

奥山 デジタル編集部に来て7年目になります。中でも一番変わったことは2011年に有料化に踏み切ったことです。

デジタルコンテンツへの本格的な課金は、全国紙の中ではうちと日経以外はしていませんでした

大熊 有料課金が成功した事例では、海外では経済系やNYTimesなどのエリート系が挙げられます。全国に数百万人の購読者を持つ朝日新聞でもやろう、やれるのだと思った背景を教えてください。

奥山 有料化するかどうかをめぐっては、様々な議論がありました。結局「挑戦しよう」となったのにもいくつか理由がありますが、「紙に頼ってきたけれど、その紙の読者が減っている中でデジタル版にも対応せねば」という思いから決まったのだと思います

「ラストダンス」ヒットに至るまで

大熊 朝日新聞デジタル版では、紙と同じ記事も多い中、爆発的にバズった「ラストダンス」など、ウェブならではのコンテンツも出てきています。これはピューリッツアー賞を受賞したNYTimesの「Snow Fall]」のオマージュだと思いますが、こうしたコンテンツの制作にはいつごろから取り組んでいたのでしょう?

奥山 実はプロトタイプはすでにいくつか出していました。「瀬戸内国際芸術祭2013」という作品のほうが先で、こちらのほうが内容としては濃厚です。やってみて学んで、むしろ必要な部分以外をそぎ落としてできたのが「ラストダンス」です。
2

大熊 それでは今回のヒットは、ある種予想されていたのでしょうか?

奥山  ヒットするように、タイミングは意識していました。質を伴って、オリンピックの試合当日の夜に公表が間に合うように作ったという意味でのタイミングです。これは他のウェブメディアにはできないことではないでしょうか。

大熊 なるほど。今後やりたいことはありますか?

奥山 私が取り組んでいる「ビリオメディア」がやはり面白いですね。これは研究室、企業と一緒になってデータから震災を読み解いたりします。ウェブだと、Twitter分析などで研究室の得意技が発揮しやすいんです。

テクノロジーを活用する企業とはライバル関係でもありますが、お互いの長所をいかす提携の可能性は広くあると考えています。例えば、スマートニュースに読売新聞社がオリンピックのニュースを提供しました。

朝日も同じことをやるかは分かりませんが、一つの戦略としてはアリですよね。

ネットでの批判、傾聴すべきポイントも

大熊 新聞社がネットで出来ることについて、少し理解できた気がします。しかし正直な話、ネットでは朝日新聞社って執拗にたたかれますよね。炎上することもあります。

奥山 ケースバイケースですが、読者の声として耳を傾けるべき時もあります。
朝日新聞社では記者のTwitterアカウントを全て認証して、利用を推奨しています。

これの是非をめぐっても議論がありました。リスクも当然ありますから。

結局、やらないよりやったほうがいいんじゃないか、ということで「個人のメディアを、組織の名前を使ってやる」という形が実現しました。
3

大熊 結果としてやってよかったと思いますか? 

 

奥山 紙面以外に、ユーザーにダイレクトに繋がれるチャンネルを1個持っているということは意義深いです。これが攻撃の対象になる原因でもありますが。

Twitterを通じて記者に提案がなされ、企画が実現することもしょっちゅうです。



新聞社とIT企業の違うところ

大熊 話は変わりますが、奥山さんは、新興のネットメディアの方々と関わることも多いかと思います。どこが新聞社のカルチャーと違うと思いましたか?
 

奥山 やはりスピード感です。"今やっているサービスがずっと続く前提でやっているか、そうでないか"の違いがあります。例えばLINEって今誰もが使っていますが、これよりいいものが出てきて来年なくなっているかもしれないですよね。私たちは真逆の世界にいて、永劫に自分たちの出しているサービスが続くと考えるところから始まっています。だから辞め方を知らないので、身動きはとても鈍くなります。
しかしユーザーの感覚に沿うものとしての正解はネットだと思います。

大熊 ネットサービスは数字ばかり追っている、という批判が考えられます。ジャーナリズム的な理念が蔑ろにされる可能性についてはどう考えますか?

奥山 KPIを何に設定するかの違いだと思います。ニュースアプリにしても、「世の中をこうしたい、こう伝えたい」という何かしらの理想に基づいて生まれています。その点では私たちと同じで、新聞社のジャーナリズムが偉い、みたいな発想は個人的には間違っていると思います。ただ私たちにしかできないことがあるのも事実で、ライツ(著作権)関係についてのノウハウは、ネットの人たちにはない強みです。お互いの強みが共有できれば、と思います。

「新聞社にしかできないこと」決めるべきときがくる

私はよく野菜にたとえて話すのですが、有機栽培してて、それをそのまま売ってたのが従来の新聞です。

でも、したごしらえや冷凍保存したものも必要というニーズが出てきて、それを満たす業者が現れました。うちも有機野菜を買ってもらう、認めてもらうには味つけを変えたり、メニューを変える必要があります。

 

ここで大事なのは、自分たちしかできないことを把握することです。ITサービスは目標が絞り込まれていて明確で、それがユーザーにとって良いように働いていますから。我々もリソースの集中は必要で、いずれ決めざるを得なくなります。
震災が起きてでも全国にニュースを届ける力、というのも1つの正解でしょう。社内に印刷の工場があるぐらい、うちは"製造業"の会社ですから。IT企業にはなれません。
外部からウェブに強い編集長を呼んで来たら社内がガラッと変わるという話でもありません。現場を動かすのはやはり違います。

大熊 「いずれ決めざるを得なくなる」とのことですが、そのリミットはいつになる、もしくはどういったタイミングで来ると思いますか?

奥山  もろもろ考えられますが、分かりやすいのは景気の悪化です。戸口に毎日届く新聞はインフラと化していますが、電気・ガス・水道よりは優先度低いので、切りつめられるかもしれません。また、今新聞を購読している5060代が定年を迎えライフスタイルが変化したときに、要らなくなると言う可能性もあります。
今流行っているスマートニュースなど、アプリの普及で新聞社の売上が大幅に変わることはあまりないでしょう。現在のメインの購読者層である中高年は、アプリを使いませんから。これもまた、新聞社がデジタルに大きく舵をとれないジレンマの一因でもあります。 


大熊 最後に、奥山さんが、朝日新聞社のデジタル編集部に居続ける魅力についてお伺いします。

奥山 確実に変わっていく業界の、真っただ中で実際に面白い変化を体験できる、それが楽しいです。

GunosySmartnewsか、はたまたLINEニュースかNewsPicksか――
ニュースアプリが「流通」の基盤を押さえるための競争が過熱する中、全く違った理念に基づいて発信を続ける新興メディアがあります。
「世界に世界を説明する」ことをコンセプトとしたThe New Classic。現役大学院生が中心となって立ち上げ、開設数ヶ月にして月間で数百万のユーザーを集めるこのメディアが描く未来について、編集長の石田健さんにお話を伺いました。

文脈を理解するためのメディア

大熊 本日はよろしくお願いします。ずばりThe New Classic(ニュークラ)とは何か、まずは簡単に説明していただきたいです。

石田 ニュースを解説するメディアで、日本であまり報道されていない海外や政治のネタを中心に扱っています。あくまでストレートニュースではなく、「こういう状況です」という文脈を押さえることを目的としています。 

大熊 海外ニュースの解説といえば「Newshere」など幾つかありますが、ニュークラの独自性はどのあたりにありますか?

石田 我々の特徴は、扱う分野に詳しい修士・博士のメンバーを含めて記事を内製していることです。だから、対象となるニュースの歴史的な経緯や背景にも目を配ります。単なるニュースの配信とは異なります。
分量も長ければいいというわけではないですが、「あのニュースって結局なんだったっけ?」という疑問を解決するためにニュークラに来てほしいので、長くなることもあります。さくっと理解したいという欲求にも応えていますが、それは長いものと両立しないわけではないです。
ニュークラ

「何を伝えていくか」こそが大事

大熊 既にお話にも挙がりましたが、ニュークラは単なる流通を追うだけじゃなくて、きちんと価値のあるものを作っていこう、残していこうという理念が色濃く反映されたメディアだなと感じます。一方でいまは、コンテンツは作らずに集めてきて流通を押さえようというプラットフォーム型のアプリがすごくウケていますよね。

石田 個人的には「メディアの未来」とか議論することはあまり意味がないって思っているんです。GunosySmartnewsは素晴らしいと思いますし、「今まで新聞が朝昼届いていたのが、スマホに一日2回に届くようになります。」っていうのはロジックとして完璧なので、その議論はそういうことだと思うんですよだから、その後で問題になるのは「そこで何を伝えていくのか?」だと思うんです。テレビだったら定められた放送時間で制限されているけれど、それに対して自由に時間をとることができるネットならではのコンテンツを出すとか。
ニュークラはアプリ化するかもしれないし、長文になるかもしれないけど、それは手段でしかなくて、事なのはどういったニュースがどういう切り口で問題化されるかという点だけです
ネットが面白いのってどんどん情報がリンクされていくことだと思っていて。一方の動画は、現状としてはパッケージとしてしか消費できないですよね。
例えば論文に注釈が欠かせない様になんらかの「知」や「知識」を説明するためには、相互にリンクし合ったテキストが、現時点では最も優れたものである気がします。ですから、ニュースを単にいっぱい配信しますよということではなく、Wikipediaそうである様に、ニュースを相互に関連づけて説明するようなデーターベースになれば良いなと思っています。

ニュースを消費するだけのものにしない

大熊 具体的に、データベースというと?

石田 例えばアメリカ大統領選挙に興味を持って、「オバマって何をしてたんだっけ?どう評価したらいいのかな?」って気になっても、Google検索じゃ分からないことが多いと思います。「オバマケア」がどういう文脈で貶されているか、とか時系列に沿って体系的に理解したいわけです
オバマ

そういった意味で
面白いなと思うのが、「Rap Genius」というサイトです。これはラップの歌詞に文脈を説明している、非常に面白い試みをやっているところです。
結局いまって、スマホでニュースを読んでいても、インフォメーションを消費しているだけなんです。しょうもないニュースも歴史に残るようなニュースもインフォメーションとしては変わらない。そこに文脈や新たな情報をひもづけることで価値が出てくると考えています。
さっきも言ったように、ニュースアプリは流通のコストを削減していて、それは素晴らしいことです。で、浮いたコストを使って人類全体が、文脈を理解するほうにもっと向かってもいいんじゃないかと考えています。

大熊 そうなると、ウェブを使ってみんなが賢くなれるという可能性があって素晴らしいと思います。しかし現実的には、ニュースアプリの競合はソシャゲだと言われていますよね。「ニュースをてっとり早く読めるようになった、じゃあもっとソシャゲをしよう」という流れになってしまうのでは?

石田 だから、同じ土俵に立って可処分時間の取り合いはしたくないですね。その意味で、ニュースの流通を担うアプリとは別の部分が大事なんだと思います。
12653290123_5fff8e8d39_m

「世界に世界を説明する」

大熊  そうした理念を持つメディアは、個人的には絶対に必要だと思います。石田さんはなぜニュークラをやろうと思ったんですか?
 
石田 起きている事象について、その背景はこうですとまさにニュークラが理念に掲げていて、あるフランスの歴史家が言ったような「世界に世界を説明する」ことに単純な興味があるからです。本を売りたいか?書きたいか?って問われたら、僕は本を書きたいタイプの人間です。それを売る場所がAmazonだろうがジュンク堂だろうとあまり関係ないと考えるのと一緒で、プラットフォーマーにはあんまり興味がないんです。

大熊 「本を書きたい」のと同じだという今の話、とても面白いです。目標は、より多くの人に読んでもらうことですか?それとも、特定の誰かに深く刺さることを目指していますか。

石田 一部の人向けに読んでもらいたいわけではないです。そうしたメディアならば雑誌とかでも良い訳で日常のあらゆるシーンで「これってどういうことなんだろう?」と気になり、検索する人はいっぱいいるので、それに応えられるものを目指しています。そういう意味では「ニュースサイト」という括りに限定されないですね。いかに単なるニュースサービスじゃない、ニュースの土俵で戦っていないものにできるかが鍵です。

カタイ記事も意外と読まれる

大熊 そうした時に、これからの課題は何でしょうか?

石田 今はまだニュースのパブリッシャーとしてしか見られてなくて消費されている状態なので、「このニュースに日もづいた情報がいっぱいアップデートされていますよ」という風に見せて行きるようにコンテンツを増やしていくことですね。しかし、やってみて、意外にカタイ話も読まれるということに気付けたので、まずはとにかく良質なコンテンツを増やしていきます。

イシケン

本ブログでは、度々「プラティッシャー」等の概念を紹介し、ニュースの流通がどう変わるか、誰がコンテンツを創っていくかという話を展開してきましたが、根本的な「何を創り伝えていくかが重要だ」ということを思い返させていただけるインタビューとなりました。The New Classicの今後の展開に期待です。

これからのネットメディアはどうやったら成功し、稼ぐことが可能になるのか。そこに必要な人材とは。若くして自分で会社を立ち上げ、様々な「トライ&エラーを日本で一番繰り返してきた」と語る津田大介氏に、その秘訣をお伺いしました。


出版社に全部落ちて、仕事求めて150社にハガキを出した

大熊 僕はいま21歳なんですけど、津田さんも同じぐらいの時分からライターをやってましたよね。その頃からネットの活用とかって頭にあったんですか?

津田 当時はまだここまで自分の仕事とインターネットが結びつくとは思ってなかったですね。199495年頃のパソコンはとにかく使いにくかったし、インターネットにつなぐのにも一苦労でした。

高校のころから僕はとにかく物書きになりたかったんですけど、いきなりフリーで活躍できるわけもないので、まずは経験を積もうと思って出版社を受けました。筆記試験はほとんど受かったんですが面接で全部落とされちゃったんです(笑)。どうしようかなって思って本屋に行ってみると、当時はパソコンやインターネット関連の雑誌がとにかく信じられないぐらいあったんですね。とりあえず自分で仕事を作らなきゃいけないと思って、当時アルバイトで働いていたライターさんの名前で売り込みのハガキを出しまくったらいくつか反応があってそこでおこぼれの仕事をやることで雑誌ライターデビューを果たしました。それが1997年のことですね。 

コンテンツの黄金時代をかえたiモードとプレステ2

大熊 出版業界の市場規模のグラフを見たことあるんですが、本当にちょうその頃ピーク迎えてその後ひたすら下がっていますね。

 z03

(「電子書籍情報まとめノート」より)

津田 書籍に限らず、音楽・CD・パッケージのゲームとあらゆるコンテンツが90年代後半に売り上げがピークだったんです。ピークアウトした1999年にNTTドコモがiモードを始めてそれがコンテンツ・メディア業界の大きな転換点になったんですね。1999年は僕も小さな会社を立ち上げて起業した年で自分にとっても大きな転換点の年になりました。 

会ってもらうために色々なことが試せる

大熊 ちょうど僕が小学校に入った年ですね(笑)

津田  それは時代を感じるなあ(笑)いま大熊さんが取り組んでいることと僕が当時やったことで似ているなと思ったのは、ほかの人がやらないようなところに目をつけて、とにかくやってみるっていう絨毯爆撃手法なんだと思います。これはいくらネットが普及しても変わらないし、いつの時代でも有効なやり方ですね。


大熊 そうですね、僕がやってる「いろんなジャーナリストに取材する」という企画も、当初構想を練ったはいいけどぶっちゃけ「これ、誰かから本当に返事来るのか?」って思っていました。でもやってみると案外反響があってびっくりという感じで。


津田 依頼の文面がきちっとしていると、それだけで会ってみようと思う大人は多いと思いますよ。あとはメールでレスポンスがなければ、目当ての人が出演するイベントに行って、終わってから駆け寄って名前と大学名とやっていること書いた手書きの名刺を出してみるとか。やっぱり、リアルであった人の依頼って断りにくいですし()

あとは、「ランチ中の30分でいいんでお話聞かせていただけませんか?」とお願いするのもいいんじゃないかな。どんなに忙しくてもメシ食べる時間はあるわけでそれをおすそわけしてもらうみたいに。そんな感じで色々試して断られても何度も何度も繰り返せば、いつかその人が罪の意識にさいなまれて会ってくれるかもしれないでしょ(笑)

4553492176_7eebb36156_m
(flickr/T M) 

仕事で得た関係性を次につなげていく

大熊 大変参考になります。津田さんも、ライターの仕事を獲得された後もそういった営業の連続だったんですか?

津田  いや、僕が個人の物書きとして人生で唯一やった営業は最初のハガキだけですね。一回やると関係性ができて次も君に頼むよ、という流れで仕事が決まっていきました。まず大事なのは仕事をすることで、大熊さんもアメリカ東海岸でインターンすることが決まっているわけだから、そこでこんな仕事やっていましたということが次の仕事につながるキャリアになるんじゃないかと。


大熊 なるほど。お話を伺っていて、津田さんの目のつけどころもよかったのかなと思います。


津田 その頃は業界全体が猫の手も借りたいという状態だったからたまたまうまくいったんでしょうね。売れてる業界は人が足りない。そういう当たり前の話ですよ。その意味でウェブメディア業界は今後そういう状況になっていくんじゃないかと思いますね。ただ、無料が前提のオンラインメディアをマネタイズするのはどこも苦労している。だから、「メディアをどうマネタイズするのか?」ということのプロになれば引く手あまたの存在になれると思いますよ。 

日本で一番トライ&エラーを繰り返してきた

大熊 そういった意味合いではやはり津田さんの立ち位置は絶妙ですね。

津田 いや、難しいし、成功する確率も低いから誰もやらないという話ですよ。オンラインメディアはプラットフォームビジネスじゃない分急成長が期待できないので、あまりファンド入れて成長してという仕組みが成り立ちにくいですし。資金的な意味で独立してやっている人は本当に少ないですね。寂しい話ですけどね。僕が創業に関わった「ナタリー」という媒体があって、これは音楽・コミック・お笑いなどのエンタメ系をニュースを記者が独自取材して配信するというコンセプトのサイトなんですが、エンタメジャンルにおいて独立系で大きくなった唯一のメディアだと思います。

f5f3e0cd56e6672a8f1767b9817a8afc
(ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」公式ページより) 
 

じゃあ僕はどうやってメディアを作ろうとしているのかというと、自分の現在の収入源の1つはラジオやテレビの出演料。もう1つが月額制のメルマガ。これらで稼いだ資金を使って、お金にならないネットメディアをどんどん作っていきたい。そういう無駄なトライ&エラーを日本で一番繰り返してきた人間なんじゃないかとは思っていますね。単にそれは自分が不器用であることの言い訳でもあるんですが(笑)。最近手がけた仕事でいうと「ポリタス」の都知事選特集があるんですが、あれはシステム開発費やデータ調査費、アルバイトの作業比で700万円くらいかかりました。突っ込んで、月間のPV120PV、ユニークユーザーが50万人くらい。一応Google Adsenseは貼っていたんですがその広告収入はわずか7万円でした(笑)。その赤字を体感することでとりあえず次はもう少しやり方考えようと学習するんです。


大熊  有料メルマガを大きな収入源にできている人は、ホリエモンさんとか佐々木俊尚さんみたいに日本では数えるほどしかいないですよね。しかも津田さんが始められたのは後発でした。それでなぜ成功したんでしょうか?


津田  確かに始めたのは2011年後半だから有料メルマガブームの中で最後発になりますね。

なるべく多くの人が購読しやすくなるように、3つの方向性から「入口」を考えたんです。1つ目はいわゆる"津田ファン"のような人。それが千人ぐらいは登録してくれるだろうと。2つ目は「ポリタス」で既存の新聞や政治メディアがやんないことをしますって宣言して、それにはお金が要りますと作りたいメディアの方向性を示すことでクラウドファンディングのように登録してくれる人たちのことを考えました。3つ目は、もともと僕が好きだった雑誌のように単にメルマガで面白い記事を作って話題になれば、記事そのものを楽しんでくれる人も出てくるだろうと。その3つを掛け合わせて「メディアの現場」を作りました。

40aba92e8273ec1022c69f83152eeec7
(「津田大介公式サイト」より)

続きを読む

 図1
(公式サイトより)

Gunosy」「Smartnews」「LineNews」など、さまざまなニュースアプリが流行している昨今。その中にあって、異彩を放っているのが株式会社UZABASENewsPicksです。

欲しい情報のみがユーザーに届けられ、そこに著名な経済評論家らの解説コメントが寄せられて理解が進む仕組みで人気を博しています。

他方でプロフェッショナル向けの企業分析ツール「SPEEDA」のグローバル展開に挑戦し、"経済情報におけるGoogleの役割を担いたい"と豪語する株式会社UZABASEは、メディア業界をどう捉え、どう変えていくつもりなのか。社長の梅田優祐氏にお話を伺いました。

「コンテンツ作る力」は既存メディアが圧倒的

大熊 本日はよろしくお願いします。UZABASEさんは元々外資系コンサルとか投資銀行出身の方が大半を占めていて、メディア業界出身の人は皆無ですよね。

メディア業界というのはある意味で古臭い、右肩下がりの業界に見えるかなとも思うんですが、どういう意図をもって参入したのでしょう?外部から、メディア業界はどのように見えていたんですか?

 

梅田 既存のメディアには100年を超える歴史があって、特に「調査報道」は彼らにしかできないし、コンテンツを創る力はめちゃくちゃに優れています。ベンチャーが一昼夜にして崩せるとは思えない。

でも、元々もつ仕組みがあまりに強固すぎて、今ユーザーがシフトしているデジタルの媒体には対応できてない、戸惑っているんじゃないかなとも思います。優れた調査報道力と、デジタルでのコンテンツ配信。この2つが融合する事が今後の鍵だと思っています。

図3
(梅田さんのFacebookより) 

プラットフォームとコンテンツをつなぐ

大熊 「調査報道」=取材に基づいた報道についてですが、経済メディアとしてのUZABASEのライバルであるブルームバーグやロイターも報道部隊を持っています。将来的にはUZABASEも調査報道するつもりですか?

 

梅田 はい、大いに考えています!!コンテンツを作る人と、デリバリーしている人が昔は一緒だったけど、分かれてきているのがデジタルの時代です。

コンテンツを作るのは新聞社もあるし、ブロガーさんでもいいといったように分散化してきている。しかしこれをデリバリーするプラットフォームはどんどん集約化していき、最終的に2つか3つぐらいしか残らないんじゃないんでしょうか。

分散化するコンテンツを作る人と、集約化するプラットフォームをいかにうまくつなぐかがこれからの課題です。

そして私たちが今担っているプラットフォームの部分をユーザーにとっていいものにするには、まず使いやすさとか、見やすいデザインにするという工夫が考えられます。しかしこれはいずれ必ずコモディティ化します。

そこで次は「コンテンツ」の勝負になってきます。そうしないとプラットフォームとして生き残っていけないでしょう。例えばAmazonも自社制作の番組に多額の投資をしており配信する事を計画しています。これと同様の流れだと思っています。

Amazonが自社製作のオンラインテレビ番組配信サービスを計画中


図2

Amazonより)

ターゲットはすべてのビジネスパーソン

大熊 NewsPicksを使っていて思うのが、今のところ利用者は“意識高い層”が中心ですよね。今後もこの層にフォーカスするのか、それとももっとマス向けを狙っていくんですか?

 

梅田 すべてのビジネスパーソンに向けたものにします。

 

大熊 先日、LINE Newsが新しいサービスを始めました。

【LINE NEWS】"ニュースアプリを利用しない層"に向けた取り組みをさらに強化


これによると、ニュースアプリに登録しているのはスマホユーザーのうち8%程度で、非常に能動的な層であるようです。そこで今後は受動的な層もとっていきたい、というのがLINEニュースの新サービスの狙いだそうです。

NewsPicksも今まさに能動的に情報をとりにいく媒体ですよね。受動的な人も使いたくなるようにする戦略はありますか?。

 

梅田 いずれ、動画を組み込むことを考えています。テレビってぼーっと見ますよね。あれが動画の最大の価値なので、やりたいです。

“発見”と“理解”同時に満たすのはNewsPicksだけ

大熊 現在の日本で最大の経済メディアといえば日経新聞です。でも日経新聞って、数百万人もの読者に向けて最大公約数的に書いているから、用語が変に抽象的になったりして、逆に誰にも理解できない媒体になっている、という指摘が考えられます。NewsPicksはそうならないためにはどうしますか?コンテンツの幅を広げれば、すみわけはできるんでしょうか。

梅田
 例えば“四半期決算の開示見直し 経産省が提言へ”というニュースの意味って、それが日本にとっていいことなのか悪いことなのか、大半の人には直観的にわからないですよね。でも
NewsPicksを見ると、一橋の教授とかアナリストが直接コメントしている。こういう解説によって理解が可能になるのがポイントです。

かのう
(NewsPicksより)
経済ニュースへの欲求は二つあると思っていて、1つは「このニュースが見たかったんだ」とい”発見”。もう1つは“理解”です。

発見と理解の両方を満たす媒体が必要なのに、今までなかったんです。発見の方は編集者が勝手にやってきたものを、NewsPicksでは自分の興味ある人をフォローできます。理解の方は、ニュースに対する反応から深められます。

 

大熊 やはり著名なビジネスマンや教授など、権威・発信力のある方が解説しているのがポイントですよね。ITについてホリエモンさんがおすすめしてたら読んでみようとか思います。こうした著名人はどうやって集めたんですか?

 

梅田 できる事はなんでもやりました(笑)。ただやはりビジョンへの共感は重要だと思います。経済学の教授に話を持ちかけた時も、確かにそういうメディアはない、必要だ、と言ってもらえて協力していただいたりといった形です。



続きを読む

↑このページのトップヘ