メディア・クエスター

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カテゴリ: 取材

米国ではオンライン動画配信サービスのNetflixが台頭し、Amazonも自前の番組制作部門を設立。ネット企業の勢いがテレビビジネスの構造を変えつつあります。

一方日本でも、日テレが動画配信サービス
Huluを買収したニュースが記憶に新しいです。転換期を迎えたテレビビジネスはどうなっていくのでしょうか。

某テレビ局で報道、バラエティ、情報番組から様々な放送外事業を担当した経験を持ち、現在はテレビ関連企業の社長を務めながら、メディア論ブログ「あやぶろ」( http://ayablog.com/ )を運営する氏家夏彦氏に「テレビの未来」を聞きました。
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話し手=氏家夏彦氏(以下、氏家と表記)

聞き手=大熊将八(以下、大熊と表記)

地上波以外のビジネスモデルを築けるか

氏家 まず、テレビの放送が全部ネットに置き換わる、つまり電波を使わず全て通信でやるといった意味での「ビジネスモデルの変化」は、少なくともこの先20年はありませんよ。ネットとテレビ放送を比べたらリーチ力が2けた違います。ネットで一番人を集めるニコニコ生放送でも、同時視聴で非常に多くて10万人単位の規模でしょう。通常では人気コンテンツで数千人から数万人、それだとテレビの視聴率でいえば0.1%以下の「」と表記されるレベルです。何よりもまず、ネットで同時視聴数千万人という現象を実現しようにも、回線がもちません。

しかしビジネスモデルが崩壊することはなくても、何もせず放っておいたらじわじわと視聴率は落ち、今は下げ止まっている広告収入も、いずれ減っていくでしょう。どうやったら成長するか?が企業としての課題なのに、このままでは地上波にはこれ以上期待できない、成長の道筋が見えていないというのがテレビ局経営の現状です。

大熊 それでは、どういったところに今後の成長のチャンスがあるんでしょうか?

氏家 これまでの番組は決まった時間にテレビ画面に流れるだけでしたが、これからはいつでもどこでも観られるということが大事です。インターネットの特性である「いつでも・どこでも」というユビキタス性を取り込むのです。各局そのことは理解していて見逃し視聴サービスを始めていますが、足並みがそろっていません。例えばTBSは有料課金モデルで提供していますし、日テレはサービスを無料提供し動画広告でマネタイズする試みをスタートしています。

けれど、例えばiTunesは一つのプラットフォームにあらゆる曲が集められたことに価値があり、ユーザーを集めました。これが各レーベル毎にバラバラのプラットフォームで展開したら、あんなにうまくはいかなかったでしょう。テレビも同様に、各局が足並みをそろえて同じプラットフォーム上でテレビ番組表のように一覧でき、そこからクリック一つで視聴できるパッケージとして売り出さなければ、ユーザーにとって非常に使いにくく価値の低いものとなります。

もう1つ大切なポイントは、見逃し視聴はネット経由の視聴に限定し、視聴できるデバイスはスマホやタブレット、PCに限定することです。テレビで見られるようにすると、最も重要な放送のリアルタイム視聴を侵食してしまうからです。 むしろ地上波での視聴を促進するような見逃しサービスを実現する必要があり、そこでネットをフル活用しようという話になってきます。

キー局初のコラボ「ハミテレ」

大熊 そこまで見えていて実現していないということは、テレビ局はコラボレーションが苦手なんでしょうか?

氏家 オリンピックやワールドカップといった、一社では持ちきれないほど大型のコンテンツを除いたら、未だかつて、キー局が協力して一つの事業をしたことなんてないんですよ。各局が対抗意識を持って、どうやって相手を出し抜いて視聴率を稼ぐかというシェア争いばかりを考えてきましたから。

しかし流石に最近では危機意識を共有できるようにはなってきました。

その好例として生まれたのが「ハミテレ」という番組情報サービスです。これはスマホ・アプリなんですが、NHKも含め在京キー局が全て集まって作ったもので、話題になっているテレビ番組情報を教えてくれます。

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とにかく各局の利害が反映されないことを念頭において、中立なアルゴリズムを組み、ネットから情報をとってきています。開発に際してはユーザーの利便性を最優先したと聞いています。番組の出演者情報から他局の番組に飛べたりもします。これまでは、ほかの局にリンクはるなんてありえないことでしたから、実はすごく画期的なことなんです。やっと一つ、各局が足並みをそろえてサービスをつくる実績が出来ました。

大熊 それなら、全局乗り入れの見逃し視聴サービスの実現も近そうですね。

氏家 いやいや、まだまだ遠いです。たとえば「ハミテレ」でも出演者情報の一部で顔写真が載っていないものなどがあります。権利関係をクリア出来なかったのです。顔写真でさえNGなのに、番組配信の了解を得られるかは非常に高いハードルです。

他にも、放送エリアの問題もあります。放送は県域免許なので、東京キー局の番組は関東圏だけでしか見られないようにしなければなりません。スマホの位置情報をもとに配信して、例えば静岡県にいたら静岡の放送が視聴できるといったサービスにするのが望ましいですが、県によっては、民放は2局しかないところもありますから、その県に住むユーザーは不満を感じるでしょう。こうしたややこしい問題を解決していかなければなりません。

そんな風に乗り越えるべきステップを考えていったら、まだ100個ぐらいありますよ(笑)

大熊 やはりそこまで単純な話ではないんですね……

氏家 でも実現すれば、いろいろと夢を描けます。例えば番組の情報をメタデータにしておいて、これを使って番組内検索ができるようにすれば、盛り上がったシーンだけをTwitterFacebookで共有して、いきなりそのシーンに飛ぶことだって出来るようになるかもしれません。現状でもソーシャルではテレビに関する膨大な情報が飛び交っていますから、そこから物凄い量のトラフィックを誘導できるようになります。

新たなマネタイズの可能性 

大熊 仮に各局乗り入れの見逃し視聴が実現したとして、CMはより見せにくくなるかと思いますが、マネタイズはどうするんでしょうか?

氏家 課金モデルも月額定額制にすれば十分成立するでしょうし、広告モデルも地上波のCMと同調させたり、独自の動画広告を打つなど様々なパターンが考えられます。

特に見逃し視聴はインターネット・サービスなので、テレビCMではできないターゲティング広告を打つこともできます。ユーザーの特性に応じて表示する広告を変えることは、今のテレビではできません。

また、CMを活用したプロモーションも容易にできるようになりますし、広告媒体としての価値は非常に高いものになります。

さらにデータをとろうという考えもあり得ます。番組も1つ1つのシーンやネタ単位でデータをとり、他のビッグデータとクロス解析してどういった消費行動に繋がったかまで追えれば、日本で一番のリーチ力と消費行動の関連性が可視化されるという最強のマーケティングデータを獲得できます。これはデータ自体に非常に価値があるので売ることもできます。また単に広告枠を販売するだけでなく、データを活用すればより強力なプロモーションというビジネスモデルが考えられるようになります。販売促進費市場は、広告費市場より大きいと言われていますから、新たなマネタイズとしては非常に期待が持てます。

大熊 そこまで勝ち筋が見えているだけに、なんとか実現してほしいですね。

氏家 冒頭でも言ったように、テレビのビジネスモデルが崩壊することはないでしょう。しかし10代の中ではテレビは既にセカンドスクリーンになっているし、このままでは存在感は一層失われ、媒体価値はどんどん下がっていきます。10年後・20年後もフロントラインにテレビがいるためにはどうするかを考えた時、この挑戦の行方は非常に重要な意味を持つと考えています。


(※このインタビューは7/8に行われました) 

東洋経済
(東洋経済オンラインよりキャプチャ)

エンジェル投資家を本業としながら、ベストセラー「僕は君に武器を配りたい」などの著者でもあり、NHKNEWS WEB 24(現・NEWS WEB)」の第1期ネットナビゲーターも務められていた瀧本哲史氏。ふだんTwitterなどでメディア業界についてコメントすることも多い彼は、この業界の行く末をどう見ているのでしょう。
インタビューを経て、これまでの筆者の「ウェブメディアの常識」が叩き壊されるような発言が飛び出しました。 

メディアと関わることで情報が手に入る

大熊 瀧本さんは、「投資家は本当はあんまり表に出てはいけない」と日ごろから仰っていますが、慎重に、厳選してメディア露出をされていますよね。その意図を教えていただけますか。

瀧本 メディアに関わる理由としてはまず、影響力が大きいと言うことが重要ですね。「政治は何で決まると思うか?」という調査があって、リテラシーが高い人ほど「メディアで決まる。」と考えています。これは事実だと思います。また、ビジネスの世界も政治同様、メディアが及ぼす影響力は大きいと思っています。
ただ、メディアに出るのはそれで影響力を持ちたいからではないです。というのも、私の仕事上のシナジーは小さいからです。むしろ、私がメディア露出する理由は、逆で、メディアの人によってきてほしいからです。それは、情報交換やディスカションが目的です。
取材されることを通じて人と繋がり、情報を手に入れられるし、関係を持つことでこちらから間接的に発信することもできます。メディアの人に私なりの視点を提供できれば、意見を求められることはありますし、私が出なくても結構記事になっていることはあります。

もちろん関係を持つ対象は選んでいて、質の高いメディアだけに出ます。質が高いというのは読者も記者も編集者もレベルが高いということです。しょぼいメディアに出ると、対談原稿一つでも大幅に直しを入れる必要が出てきて、コストがかかりすぎて割にあいません。なので、読者が少なくても優良なメディアには重点的に出ます。例えば「クーリエ・ジャポン」や「ハーバード・ビジネス・レビュー」ですね。

ネットメディアは残念ながら質がまだまだ低いので、出たいメディアは少ないですね。

良い編集者には「ネットワーク効果」がはたらく 

大熊 そんな中、今回引き受けていただいて恐縮です。編集者に関しても瀧本さんは「一流の人のみと付き合うべきだ」と仰っています。
僕も「一流の編集者」を目指しているわけですが、その条件として何が挙げられますか?

瀧本 まずライターとしても質がすごく高いことです。例えば、自分がライターだったらどうまとめるかという視点に立って、「この部分にはこういう表現を入れたらわかりやすい」とか、「この文章構成にしたほうが関心をひける」とか判断が出来る人のことを指します。本人のライターとしてのスキルが高いので、他のライターを評価でき、結果的に抱えているライターの質が高くなる。これも条件になります。つまりその人自体が優秀で、かつその周りにいる人が優秀だということですね。

この場合、ネットワーク効果が働くため優秀な編集者には優秀なライターや編集者が集まりより優れていき、ダメな編集者にはダメライターばかり集まってよりダメになっていくという法則があるので、この二つの条件は相関します。

そうなると、出版社に勤めていて、ある程度の年次がいってるのにヒット作の1つもない人はかなり厳しいですね。

大熊 やはり格差が歴然とした世界になってきますよね。しかし現状、出版社の編集者はサラリーマンです。1万部しか売れない人と100万部のヒット作を作った編集者のサラリーの差はせいぜい倍です。
今後業界が厳しくなってきたら、例えば金融業界のトレーダーのようにダメ編集者はどんどん切り捨てられ優秀な編集者が厚遇される「プロ編集者の時代」が来ると思うんですが、どうでしょう。

瀧本 いずれそういう時代は来るでしょうが、大手出版社の構造変化が起きるのはまだしばらく後でしょう。なんだかんだで、まだ新興のネットメディアなどよりは、例えば、講談社のような大出版社が平均的には優れていますね。先ほど挙げた編集者の素養である基本的なスキルが高い。
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(講談社公式Facebookより)続きを読む

前編「亀松太郎さんが注目する2つのウェブメディアとは」に引き続き、後編では亀松さんの業界観を語っていただきました。

「5年で記者・編集者独立の時代はくる」か

大熊 実は僕もバイトとして関わるんですが、先月(5月)、東洋経済オンラインの佐々木紀彦さんが「NewsPicks」に移籍されるというのがニュースになりました。人材移動の少なかったメディア業界がいよいよ変わるんだ!という人もいますが、亀松さんは15年も前に朝日新聞の記者職を辞められて、紆余曲折あって今はウェブメディアの編集者をなさっています。その時と比べて、時代は変わりましたか。

亀松 僕の場合は、何か志があって辞めたわけではなく、実際朝日を離職後しばらくニートをしていましたからね(笑) 同期で辞めた人も何人かいて、弁護士目指すなり大学院に進学するなり、国連職員になった人もいました。改めて夢を目指しなおしていった感じですね。
5年後、メディア独立の時代は来るか!?と騒がれていますが、周囲を見ていると、40代でネットのメディアに行ってやろうという人は多くないですね。個人的にもおすすめしません。

大熊 なるほど。それは新聞社の人の側の心境かなと思いますが、実際に亀松さんも「弁護士ドットコムトピックス」というネットメディアを運営している身としては、紙の記者・編集者ってほしいんですか?かなり勝手が違うかなと思うんですが。

亀松 ウェブメディア側としては可能であればそりゃ呼びたいです。一流の記者・編集者が持っている人脈や、編集力・文章能力はやはり重宝します。ただ仰るとおり紙の常識に縛られていると限界もあるので、柔軟性や適応力は必要です。
僕も最初の3年間朝日にいただけなんですが、なんだかんだで紙の常識に縛られているところがあると感じます。そういった意味では、最初に紙メディアにいくべきか、ウェブメディアにいくべきか、なかなか難しいところですね。
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(「記者独立の時代、5年で来る」佐々木紀彦編集長に聞く - 朝日新聞デジタル(5月8日)よりキャプチャ)

大熊 なるほど、それではずばり、「5年で記者独立の時代はくる」と思いますか?

亀松 僕のFacebookでも指摘したんですけど、記者ではなく編集者に独立の時代が来ますね。記者のほうはウェブの世界ですでに飽和状態です。
    いっぽう編集力というのは要はコンテンツを企画する力、人を引っ張ってきてコーディネートする力、集めた人をマネジメントする力から構成され、需要はとても高い。まさしく佐々木紀彦さんは大きな視野と編集力を持った方ですから、大熊さんが記事に書かれたように、移籍は自然だなと思いました。

佐々木紀彦氏のNewsPicks移籍は必然だったのか

新聞社もお互い様なところがある

大熊 佐々木さんがよく仰っているのは、これまでネットはコンテンツを創らず集めるだけで、流通を握ることに特化してきた。それじゃだめなんだ、きちんとしたコンテンツを創りそこに対価が払われる仕組みを作らなければいけないということです。これはドワンゴの会長である川上さんも同様のことを言ってて、「ニコニコ動画」で実践しているのだと思います。ニコニコ動画にも関わられた亀松さんから見て、その動きをどう思いますか?

亀松 各論はともかく、総論としては「そりゃそうだ」っていう流れだと思いますよ。やっぱりコンテンツを創っているところが偉いのだ、と。ただ、彼らは実際にネットでコンテンツを創っている側にいるからそういうことを言うのだという、ある種のポジショントークという側面もあることは否めないはずです。

大熊 というと?

亀松 ユーザーの視点に立てば、コンテンツを自前で作っているのか、ほかから集めてきているのかは、あまり重要ではない。さっき紹介した「市況かぶ」も、自分で大雪の現場を取材したのではなく、Tweetをまとめているだけですが、あれはあれで面白いわけです。まとめコンテンツも、ユーザーを満足させられているのであれば、その意義は否定できないと思います。

大熊 Twitterまとめならまだよくても、せっかくコストかけてコンテンツを創った新聞記事などがパクられるから、マスメディアは怒るんだと思いますが。

亀松 しかし実は、新聞記者も、ほとんどの場合は取材対象にお金を払って取材しているわけではないんですよ。だから、ネットに無料で転載されているのに対して怒るのも、考えてみれば変な話です。自分はただで情報を入手しているわけですから。
 
また、新聞記事が無断転載されると、著作権法違反だからけしからんと言われますが、そもそも著作権法で保護されるのは、小説や評論に代表される創作性の豊かな「表現」であって、単なる「情報」は保護されないんですね。実際、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、著作物に該当しない」と、著作権法に書かれています。
 
判例では一応、新聞記事も記者が表現を工夫しているから著作物にあたりうるとされていますが、多くの新聞記事の価値は「表現」にあるのではなくて、「情報」それ自体にあるわけです。
そう考えると、文章表現の創作性が乏しい新聞記事が、著作権法で保護されるべきなのかは、かなり微妙だなという気もしてきます。

僕が朝日新聞を辞めた理由の一つは、毎日やることが単調で変わらないなと思ったからです。そのときは、新聞記事を書くのは「大学入試の穴埋め問題」を解くみたいなものだと感じていました。記事を入れるフォーマットが決まっていて、そこの穴をひたすら埋めていく作業だな、と。それが「表現」といえるのかどうか……。

大熊 著作権の問題についてはそこまで調べたことがなかったので、初めて聞いてとても面白いなと思いました。 

亀松 いっぽうで今は新聞社もだいぶ変わってきていて面白そうだとも思います。 
    もちろん、生活がかかっている仕事だから、当人たちは大変でしょうけどね。

ジャーナリストは「所有」されるべき!?

大熊 新聞記者は今は給料もらいすぎ、でもこれから落ちていくだろうという話がありますよね。

亀松 だから、ジャーナリストこそお金持ちの人と婚活するべきですね。「オウンドメディア」ならぬ「オウンドジャーナリスト」みたいな。お金を気にしないで活動に打ちこめるなら無敵です。

大熊 その発想はなかったです(笑) 

亀松 「所有はされているけど編集権は渡さない」みたいなね(笑)冗談抜きに、独立してやっていく人はパトロンを見つけることが重要でしょうね。そのためには個性を確立する必要があります。

大熊 芸術家のようですね。一定の知名度があれば、特定のテーマについて調べると宣言し、クラウドファンディングで資金を集めたりできますね。実際、アメリカのクラウドファンディングサイト「Kickstarter」にはジャーナリズムの欄ができました。
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亀松 お金を出してもらう代わりに、取材で質問する内容の受付とかをするといいかもしれません。個々のメディア単体では稼ぐのが難しいといわれているネットのジャーナリズムですが、そうやって皆でマネタイズの方法を考えながら、新しい形を作っていくんだという意識は大切だと思います。

(了)

ユーモアを交えて、独特の視点でウェブメディア業界を語っていただいた、非常に面白いインタビューとなりました。 

新卒で朝日新聞入社後、法律事務所勤務などを経てニコニコ動画のコンテンツ「ニコニコニュース」の編集長を務め、現在は「弁護士ドットコムトピックス」というウェブメディアを手掛ける亀松太郎さん。前後編に分けてお送りするインタビューの前編では、 紙とウェブの両方のメディアに関わった経験を持ち、特にウェブメディア事情に明るい彼が注目しているウェブメディアについてうかがいました。
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ネットならではの面白さ「市況かぶ全力2階建て」

大熊 作り手としても読み手としてもウェブメディアに明るい亀松さんが、いま注目しているウェブメディアは何ですか?

亀松 2つあって、1つは株関連のニュースに対するTwitterの反応をまとめて流す「市況かぶ全力2階建て」です。
2月に大雪があって、交通機関がストップして山梨県で住人が孤立してしまったという出来事がありましたよね。あれは報道陣も現場に入れなかったわけですが、停まってしまって閉じ込められた電車の中からTwitterを使って、実況ツイ―トする人がいました。
「市況かぶ」はその一連のツイートをまとめて流したんですよ。


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これが現場からの差し迫るリアリティがあって、よくできたルポタージュっぽい仕上がりになっていました。非常に価値がある現場の声ですが、テレビや新聞では伝えられないんです。なぜなら、裏を取っていないから。
「市況かぶ」もそうですがネットメディアはそんなことお構いなく流しちゃいます。もともと株のニュース流しているところがなんで災害報道やってるんだという話ですが、その柔軟性こそがネットにしかできないことかなと思いました。

オウンドメディア「弁護士ドットコムトピックス」の戦略

亀松 そこにヒントを得て、私が編集長を務める「弁護士ドットコムトピックス」でもコンテンツの幅を広げ始めています。
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大熊 最初はニッチな法律相談を扱うメディアだったのが、STAP細胞問題とか遠隔操作事件という世間の注目を集めている事件について法的な視点から語ったり、記者会見の書き起こしにもチャレンジされていますね。

亀松 そうなんです。まずは「何か法的な疑問がわいたときに来てもらうところ」というのを目指していますが、それをやったうえで、社会に関する問題なら何でも扱えるだろうと思っています。
特に今は何か事件が起きた時の解説を行っていますが、これは事後的ですよね。
でも、本当は平時にも法は動いています。平穏に見えて実は離婚のことを調べていたりとかね(笑)
。なので、平時からちょっとした疑問を持った時に見てもらえるサイトにしていきたいですね。

大熊 便利だし、僕自身も何か事件が起こった時にはここを観るという習慣がついてきているのでとても重宝しているメディアなんですが、残念ながら編集部員を何人も雇えるほどの収益を上げることは難しいのかな、とも思います。PVは月間300万程度で、バナー広告以外のマネタイズ方法は現状ないですよね。
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亀松 「弁護士ドットコムトピックス」は元々オウンドメディアですから。「弁護士ドットコム」の本来のコンテンツは日本全国の弁護士に関するデータベースと、法律の質問のQAです。こちらは一部を有料サービス化していてマネタイズしています。その知名度を上げるために始めたのがもともとなので、そこまで収益化は考えていませんでした。それでも広告がついてきて、今は単体でも収益化が見えてきました。

大熊 なるほど!それではこれからも、このまま続けていくというイメージですか?

亀松 今後、一部有料化や、書籍化で稼ぐことは考えられます。特に書籍化。いい編集者がいたら、紹介してください(笑)

大熊 コンテンツとしては今後どういったことをやっていきたいですか?

亀松 ニュースの解説番組を動画でやりたいですね。それから記者会見を生中継もやりたいです。動画とも相性がいいコンセプトだと思うので。

大熊 「弁護士ドットコムトピックス」、本当に色んな可能性がありますね。

亀松 そうですね、幅広くやっていきます。とにかく面白いことをやったら何でも支持してくれるのがネットらしさだと思います。一方で既存メディアは、「朝日らしさ」「日経らしさ」というブランドに縛られがちだと思うんです。
だから新しいことを始めても受け入れられなかったり、始められなかったり。
とにかく大手ができないことをゲリラ的にやろう、というコンセプトでやっています。

ネットの「遺跡発掘」を行う「ログミー」

亀松 もう1つ注目しているウェブメディアは、動画の書き起こしサイト「ログミー」です。

大熊 ここは非常に来ていますよね!ウェブメディア業界の人に会うたび、みんな推しています。

亀松 実は書き起こしというコンセプトは僕がニコニコニュースの編集長をやっていた時代に検討していて、ちょっとだけやってたこともあるんですよ。やはり生放送だけではリーチできる人数も限られるし、コンテンツを再利用しないのも勿体ないので。
全文書き起こしはときどきやっていて、出演者にも褒められたりしたんですが、コストが結構かかるので、そんなに頻繁にはできませんでした。だからニコニコニュースでは、どちらかというと、番組の面白いところを切り出すダイジェスト的な記事を掲載していましたね。
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大熊 そうだったんですか。それが今や大うけしていて、悔しいですね。

亀松 悔しいというよりは、ログミーは面白いことをやっているなあと。何が凄いかと言うと、3年前とかの古い番組を掘り起こしてきて、それが大うけしていることですね。「遺跡発掘」という感じです。ネットはフローでどんどん流れちゃうので、それを発掘するっていうのはすごく面白い。
利点はまだまだあって、音声は今のところグーグルの検索が拾えない部分ですよね。それに目を付けて、検索が効くように文字化しているという点が一つ。もう一つはコスト構造で、生放送中に同時通訳をするのは大変ですが、過去の動画から書き起こすのだと手間がそこまでかからないんです。それに今はクラウドソーシングが発達してきていますから、外国在住者に1回1000円とかでやってもらうことも可能かもしれない。

大熊 昔の面白いものを発掘して見せる これも「編集力」ですよね。

亀松 その通りです。そのあたり川原崎編集長はうまいなあと思います。 

(後編に続く)

「5年後、ジャーナリスト独立の時代は来るのか」というテーマを問うた後編については、
明後日掲載の予定です。 

佐藤慶一さんという若手の編集者がいます。
彼は講談社の「現代ビジネス」の編集者としてフルタイムで働きながら、海外メディアの最新の動向を紹介するブログ「メディアの輪郭」は、多くのメディア関係者たびたび参照するほどです。
毎日のようにブログを更新し続けながら、更に「トジョウエンジン」というNPOメディアでも編集を務めている佐藤さんは1990年生まれの23歳。
さまざまなメディア業界人が「期待のホープだ」と目にかける彼はしかし一見物静かな青年です。
その内側にいかなる情熱の炎があり、どうやって彼をそこまで突き動かしているのか、そして業界と自分自身のどういった未来を見据えているのか。インタビューさせていただきました。 
佐藤さん

メディアによって解決したい問題がある

大熊 「メディアの輪郭」で海外メディアの動向をいつも学ばせてもらっています。フルタイムで働きながら、どうしてそこまでメディアへ愛情を注いで紹介し続けられるのか聞きたいです。

佐藤  メディアに深い関心を寄せる理由は3つあります。1つ目は、僕が佐渡島という地方出身だったことです。大学進学と同時に都会に出てきて、情報発信に関してものすごいビハインドを感じました。佐渡といえばトキや金山メージしかなくて、本来伝わるべき素晴らしいものが何も伝わっていなかったんです。このままでは観光地としてもやっていけないだろうし、何より自分の地元の価値がもっと伝えたいと感じたんです。

大熊 確かに、「佐渡島」と聞いて思い浮かぶのはやっぱりトキですね……
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佐藤  2つ目は、大学3年の時にミャンマーの難民が多く生活するタイの難民キャンプに行き、そこでもやはり現地の情報が伝わっていない、情報の格差があるという問題に直面したことです。もっと正しく伝われば問題の認知や解決は早まるんじゃないかと思いました。3つ目はそうした経験から関心を寄せるようになったNPONGOの活動を伝えるメディアの問題です。実は日本には約5万の団体と約100万人の関係者がいるんですが、その規模に見合うほど大きく彼らの活動を伝えるメディアはありません。

大熊 地方・途上国・NPOといった「周縁的なもの」、本当は価値があるのにそれが伝わっていないところに目を向け、メディアによってその問題解決をしたいと考えられているわけですね。

佐藤  そうですね。地方メディアについては佐渡島に帰った時にやろうと思っていて、途上国については「トジョウエンジン」で、それからNPOについても、イケダハヤトさんが共同代表しているNPOメディア「テントセン(休止中)」に関われているんですが、現状にまだまだ満足してないです。
ウェブに適したもっと新しい形で表現すれば、メディアの力でこれらのテーマをもっと広められるだろうと
それで、進んでいると言われている海外メディアの動向を追うようになりました。メディアを追っている活動がメインのように捉えられることもありますが、根本的には地方・途上国・NPO/NGOについての発信をもっとよくしたいという思いがあります。
 

「まだまだ足りない」 

大熊 実際に「メディアの輪郭」はたくさんの業界関係者が読んでいますよね。海外メディアについて発信しつづけて気づいたことはありますか?

佐藤  そうですね、案外、メディア業界の発信をしている人が少ないということですね。それから、まだまだ知識量や実践量が全然足りてないとはいつも思います。NPOやローカルなど情報発信がなかなかうまくされていない分野をやろうというんだから、他の誰よりもメディアについて詳しくならないと、という気概でやっています。

大熊 そこまで頑張っていて、まだまだ足りないという思いなのは凄いです……。現在は講談社の「現代ビジネス」でも編集者の仕事をなさっていますよね。

佐藤  ここは、編集者としてのスキルを磨くのに最適な場なんです。紙のフィールドに長くいた先輩編集者や、ディスカヴァー・トゥエンティワンという出版社で若者に向けた新しい働き方を提案する「U25」シリーズを手がけた徳瑠里香さんという、家入さんやはあちゅうさんをプロデュースした尊敬する編集者が先輩にいます。編集者として2つのことを意識していて、1つは問題の発見から解決までに関わること。もう1つは才能を発掘してそれを流通させることです。
編集者としてのそうした能力を磨きつつ、現在ビジネスマンを中心に読まれているな現代ビジネスを、もっと若い人に読まれるようにしていきたいというモチベーションもあります。

大熊 就活の連載とか、めっちゃおもしろくてウケましたもんね。

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データジャーナリズムを学んでNPOの発信に活かす

大熊 話は変わりますが、いつも「メディアの輪郭」で取り上げられている数々の海外メディアのうち、好きなところで働けるとしたら、どのメディアでどういう仕事がしたいですか?

佐藤 これは難しい質問ですね!でも、他の人たちにもぜひ聞いてみてほしいです。うーん(しばらく考えて)
Vox mediaかなぁ。これは、 WIREDVOGUEなどのメディアを出しているコンデナスト社に技術の力を取り入れたイメージで、デザインがとってもイケてます。ワシントンポストのコラムニストが移籍した理由にもなった素晴らしいCMSがある、というテクノロジーの強さもあります。技術者と一緒にできるメディアは本当に魅力的です。データジャーナリズムやビジュアライゼーションの手法を学べることが、将来的にNPOメディアを立ち上げて運営していく際に活かせそうです。
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そうした意味では、NPOをテーマに据えながらデータジャーナリズムの取り組みが先進的で、何度もピューリツァー賞を獲っている調査報道メディアのPropublicaも気になります。
 

メディアはあくまで「手段」 

大熊 佐藤さんの根本的なテーマと繋がっていますね。最近日本でも大流行している「バイラルメディア」については、TwitterFacebookで拡散させ大量のトラフィックを稼ぐ手法は評価しつつも、メディアとしてどういう価値を生み出すのかには懐疑的なのかな、と見受けられますが。

佐藤 そうですね、僕はメディアとは何かを伝えるため、何かを実現するための手段だと思っていて、とにかく流通させることだけに主眼を置いたバイラルメディアの中にはその手段が目的化したものもあるなと感じます

でも手段として優れているのは確かで、一番アメリカで成功しているバイラルメディアである「BuzzFeed」は調査報道をしていますよね。このコンテンツは、BuzzFeedが主に扱っている「猫画像」とか「クイズ」のような軽いコンテンツの隣に、本当に軽く配置されています。
ばずふ

バズってる猫画像を見るために集まった人が調査報道も読んでいき、硬派な記事でも多くの反響が得られるというのは重要ではないでしょうか。
逆に朝日新聞の「吉田調書」のスクープなどはコンテンツの質も圧倒的ですが、ほぼ何もないところからバズを起こすという意味では大変で、採算が合わない可能性も高いわけですよね。
そういう意味ではBuzzFeed的な"コンテンツを出す軽さ"って大事だと思います。 
 

GunosySmartnewsは使ってない

大熊 「どう伝えるか」より「何を伝えるか」があくまで最重要。でも、伝え方が広まったことで出来るようになったことも確実に増えていますね。
最後に、佐藤さんの情報収集の仕方についてお伺いしたいです。「メディアの輪郭」で紹介されている海外トレンドに限らず、国内のメディア業界の記事もすばやく見つけてきてコメントされているイメージです。
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Smartnewsは使っているんですか?

佐藤 GunosySmartnewsはスマートフォンに入ってないです。注目しているメディアやジャーナリストをまとめたTwitterリストを使ってニュースを仕入れています。まだ自分でキュレーションした方が質のいい情報が集まっている気がします。

大熊 そうなんですか。でも、NewsPicksはよく使用されてますよね。
 

佐藤 NewsPicksについてはニュースアプリというよりはコメントコミュニティと捉えています。

このまま荒れないコメントコミュニティが作れると凄いですね。

(了)


彼がメディアを追い続けるとってもアツい動機が分かり、業界観や実際のニュースの仕入れ方なども明らかにすることができたインタビューとなりました。
 

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