東洋経済
(東洋経済オンラインよりキャプチャ)

エンジェル投資家を本業としながら、ベストセラー「僕は君に武器を配りたい」などの著者でもあり、NHKNEWS WEB 24(現・NEWS WEB)」の第1期ネットナビゲーターも務められていた瀧本哲史氏。ふだんTwitterなどでメディア業界についてコメントすることも多い彼は、この業界の行く末をどう見ているのでしょう。
インタビューを経て、これまでの筆者の「ウェブメディアの常識」が叩き壊されるような発言が飛び出しました。 

メディアと関わることで情報が手に入る

大熊 瀧本さんは、「投資家は本当はあんまり表に出てはいけない」と日ごろから仰っていますが、慎重に、厳選してメディア露出をされていますよね。その意図を教えていただけますか。

瀧本 メディアに関わる理由としてはまず、影響力が大きいと言うことが重要ですね。「政治は何で決まると思うか?」という調査があって、リテラシーが高い人ほど「メディアで決まる。」と考えています。これは事実だと思います。また、ビジネスの世界も政治同様、メディアが及ぼす影響力は大きいと思っています。
ただ、メディアに出るのはそれで影響力を持ちたいからではないです。というのも、私の仕事上のシナジーは小さいからです。むしろ、私がメディア露出する理由は、逆で、メディアの人によってきてほしいからです。それは、情報交換やディスカションが目的です。
取材されることを通じて人と繋がり、情報を手に入れられるし、関係を持つことでこちらから間接的に発信することもできます。メディアの人に私なりの視点を提供できれば、意見を求められることはありますし、私が出なくても結構記事になっていることはあります。

もちろん関係を持つ対象は選んでいて、質の高いメディアだけに出ます。質が高いというのは読者も記者も編集者もレベルが高いということです。しょぼいメディアに出ると、対談原稿一つでも大幅に直しを入れる必要が出てきて、コストがかかりすぎて割にあいません。なので、読者が少なくても優良なメディアには重点的に出ます。例えば「クーリエ・ジャポン」や「ハーバード・ビジネス・レビュー」ですね。

ネットメディアは残念ながら質がまだまだ低いので、出たいメディアは少ないですね。

良い編集者には「ネットワーク効果」がはたらく 

大熊 そんな中、今回引き受けていただいて恐縮です。編集者に関しても瀧本さんは「一流の人のみと付き合うべきだ」と仰っています。
僕も「一流の編集者」を目指しているわけですが、その条件として何が挙げられますか?

瀧本 まずライターとしても質がすごく高いことです。例えば、自分がライターだったらどうまとめるかという視点に立って、「この部分にはこういう表現を入れたらわかりやすい」とか、「この文章構成にしたほうが関心をひける」とか判断が出来る人のことを指します。本人のライターとしてのスキルが高いので、他のライターを評価でき、結果的に抱えているライターの質が高くなる。これも条件になります。つまりその人自体が優秀で、かつその周りにいる人が優秀だということですね。

この場合、ネットワーク効果が働くため優秀な編集者には優秀なライターや編集者が集まりより優れていき、ダメな編集者にはダメライターばかり集まってよりダメになっていくという法則があるので、この二つの条件は相関します。

そうなると、出版社に勤めていて、ある程度の年次がいってるのにヒット作の1つもない人はかなり厳しいですね。

大熊 やはり格差が歴然とした世界になってきますよね。しかし現状、出版社の編集者はサラリーマンです。1万部しか売れない人と100万部のヒット作を作った編集者のサラリーの差はせいぜい倍です。
今後業界が厳しくなってきたら、例えば金融業界のトレーダーのようにダメ編集者はどんどん切り捨てられ優秀な編集者が厚遇される「プロ編集者の時代」が来ると思うんですが、どうでしょう。

瀧本 いずれそういう時代は来るでしょうが、大手出版社の構造変化が起きるのはまだしばらく後でしょう。なんだかんだで、まだ新興のネットメディアなどよりは、例えば、講談社のような大出版社が平均的には優れていますね。先ほど挙げた編集者の素養である基本的なスキルが高い。
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(講談社公式Facebookより)

テレビのようにネットでビジネスモデルを創ることはできない

大熊 その通りですね。そこで、ネットメディアも質を高めていく必要があります。これまでのようにPV稼ぎだけを考え、コストを削って、釣りタイトルと炎上コンテンツあるいはコピペで勝負する世界では永遠に質が高まらないと思います。

瀧本
 これは、テレビが新しいメディアとして現れた時に映画・ラジオという
2つの産業が破壊されたことに似ています。無料で映像コンテンツを流すなんて、絶対成功しないと多くの映画製作プロダクションは言ったんです。だから、最初は、プロダクションの中でもセカンドラインの人たちがテレビ業界に参入していった。

ただ、広告代理店とテレビキー局が映画よりも安定的にお金が供給される仕組みを発明しました。コスト効率のいい「連続ドラマ」を発明し、若手が登用されない映画業界を後目に若いスターを次々と輩出しました。このビジネスモデルを創るのに大きな役割を果たしたのが、電通です。 

同じようにネットメディアもビジネスモデルを創れればいいんですが、ネットには独占がありません。コンテンツやプレーヤーを囲うクリティカル・マスを超えられないのです。ここがテレビとの一番大きな違いです。
物理的な囲い込みがあるからこそ勝てるんですよ。コンテンツ以前に、1家に1台のテレビという「モノ」が大事なんです。アメリカではケーブルテレビが強いですが、これもセットトップボックスという物理的なものです。
経済情報の世界で、ブルームバーグがロイターを倒せたのも端末という「モノ」を売ったからです。
新聞が強いのも販売網を持っているからです。私は昔ケーブルテレビに投資して、経営陣を一新して、一年ちょっとで加入者を倍増させたのですが、スカパーなどに勝てたのは人力の営業網を徹底的に強化したからです。

「モノを持たねば」という、とっくに結論の出ている話

大熊 ネットだけではだめだ、モノが必要という話はよくわかりました。しかし例えば「もしドラ」の編集者だった加藤貞顕さんが独立してつくった「cakes」はウェブでコンテンツを出して注目を集め、連載したものを書籍化しています。こうした取り組みはいかがでしょうか?
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瀧本 確かに「統計学が最強の学問である」のヒットなどがありましたが、そうした書籍化がやりたいならそもそもなぜダイヤモンド社から独立したんだろう、なぜウェブメディアをやっているんだろうという気がしないでもありません。ダイヤモンドオンラインでやればいいじゃないですか。ネットで有料コンテンツをやるという話はうまくいってるのでしょうかね。

大熊 それは……

瀧本
 結局、
オンラインでとれる客はオンラインで取り返されるんです。ニュースアプリもそうなるでしょう。だからAppleiTunesではなくiPhoneを重視した。AmazonKindleをつくり、今度はスマホ分野に進出し始めたのもそういう文脈です。 GoogleもChromecastとか、Nexusとかやっています。
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ソーシャルゲームも、ロックイン効果が高いガラケーをゲートウェイないしプラットフォームにして囲い込んでいたものが、自由度が高いスマホが現れ、キャリアの支配力が弱まった途端に討ち死にしましたよね。

 
「ネットだけでは永続性がない、モノを持たねば」っていうのは、2000年ぐらいには一旦結論が出ている話だと私は思っています。 



KADOKAWAとの経営統合が決まったドワンゴの川上会長について瀧本氏が論じた後編は、7月24日に公開予定です。)  

瀧本哲史。京都大学客員准教授、エンジェル投資家。

東京大学法学部卒業後、学卒で助手(現在の助教)となるも、外資系コンサルティング会社マッキンゼーに転職する。3年で独立して、投資業、コンサルタント、 評論活動など幅広い活動を行う。現在はエンジェル投資家のかたわら京都大学で意思決定理論、起業論、交渉論の授業を担当している。