佐藤慶一さんという若手の編集者がいます。
彼は講談社の「現代ビジネス」の編集者としてフルタイムで働きながら、海外メディアの最新の動向を紹介するブログ「メディアの輪郭」は、多くのメディア関係者たびたび参照するほどです。
毎日のようにブログを更新し続けながら、更に「トジョウエンジン」というNPOメディアでも編集を務めている佐藤さんは1990年生まれの23歳。
さまざまなメディア業界人が「期待のホープだ」と目にかける彼はしかし一見物静かな青年です。
その内側にいかなる情熱の炎があり、どうやって彼をそこまで突き動かしているのか、そして業界と自分自身のどういった未来を見据えているのか。インタビューさせていただきました。 
佐藤さん

メディアによって解決したい問題がある

大熊 「メディアの輪郭」で海外メディアの動向をいつも学ばせてもらっています。フルタイムで働きながら、どうしてそこまでメディアへ愛情を注いで紹介し続けられるのか聞きたいです。

佐藤  メディアに深い関心を寄せる理由は3つあります。1つ目は、僕が佐渡島という地方出身だったことです。大学進学と同時に都会に出てきて、情報発信に関してものすごいビハインドを感じました。佐渡といえばトキや金山メージしかなくて、本来伝わるべき素晴らしいものが何も伝わっていなかったんです。このままでは観光地としてもやっていけないだろうし、何より自分の地元の価値がもっと伝えたいと感じたんです。

大熊 確かに、「佐渡島」と聞いて思い浮かぶのはやっぱりトキですね……
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佐藤  2つ目は、大学3年の時にミャンマーの難民が多く生活するタイの難民キャンプに行き、そこでもやはり現地の情報が伝わっていない、情報の格差があるという問題に直面したことです。もっと正しく伝われば問題の認知や解決は早まるんじゃないかと思いました。3つ目はそうした経験から関心を寄せるようになったNPONGOの活動を伝えるメディアの問題です。実は日本には約5万の団体と約100万人の関係者がいるんですが、その規模に見合うほど大きく彼らの活動を伝えるメディアはありません。

大熊 地方・途上国・NPOといった「周縁的なもの」、本当は価値があるのにそれが伝わっていないところに目を向け、メディアによってその問題解決をしたいと考えられているわけですね。

佐藤  そうですね。地方メディアについては佐渡島に帰った時にやろうと思っていて、途上国については「トジョウエンジン」で、それからNPOについても、イケダハヤトさんが共同代表しているNPOメディア「テントセン(休止中)」に関われているんですが、現状にまだまだ満足してないです。
ウェブに適したもっと新しい形で表現すれば、メディアの力でこれらのテーマをもっと広められるだろうと
それで、進んでいると言われている海外メディアの動向を追うようになりました。メディアを追っている活動がメインのように捉えられることもありますが、根本的には地方・途上国・NPO/NGOについての発信をもっとよくしたいという思いがあります。
 

「まだまだ足りない」 

大熊 実際に「メディアの輪郭」はたくさんの業界関係者が読んでいますよね。海外メディアについて発信しつづけて気づいたことはありますか?

佐藤  そうですね、案外、メディア業界の発信をしている人が少ないということですね。それから、まだまだ知識量や実践量が全然足りてないとはいつも思います。NPOやローカルなど情報発信がなかなかうまくされていない分野をやろうというんだから、他の誰よりもメディアについて詳しくならないと、という気概でやっています。

大熊 そこまで頑張っていて、まだまだ足りないという思いなのは凄いです……。現在は講談社の「現代ビジネス」でも編集者の仕事をなさっていますよね。

佐藤  ここは、編集者としてのスキルを磨くのに最適な場なんです。紙のフィールドに長くいた先輩編集者や、ディスカヴァー・トゥエンティワンという出版社で若者に向けた新しい働き方を提案する「U25」シリーズを手がけた徳瑠里香さんという、家入さんやはあちゅうさんをプロデュースした尊敬する編集者が先輩にいます。編集者として2つのことを意識していて、1つは問題の発見から解決までに関わること。もう1つは才能を発掘してそれを流通させることです。
編集者としてのそうした能力を磨きつつ、現在ビジネスマンを中心に読まれているな現代ビジネスを、もっと若い人に読まれるようにしていきたいというモチベーションもあります。

大熊 就活の連載とか、めっちゃおもしろくてウケましたもんね。

「就職、ほんとうに残念です」 会社に入るなんてマジでつまらない! イケダハヤト×小川未来【前編】

データジャーナリズムを学んでNPOの発信に活かす

大熊 話は変わりますが、いつも「メディアの輪郭」で取り上げられている数々の海外メディアのうち、好きなところで働けるとしたら、どのメディアでどういう仕事がしたいですか?

佐藤 これは難しい質問ですね!でも、他の人たちにもぜひ聞いてみてほしいです。うーん(しばらく考えて)
Vox mediaかなぁ。これは、 WIREDVOGUEなどのメディアを出しているコンデナスト社に技術の力を取り入れたイメージで、デザインがとってもイケてます。ワシントンポストのコラムニストが移籍した理由にもなった素晴らしいCMSがある、というテクノロジーの強さもあります。技術者と一緒にできるメディアは本当に魅力的です。データジャーナリズムやビジュアライゼーションの手法を学べることが、将来的にNPOメディアを立ち上げて運営していく際に活かせそうです。
vox
そうした意味では、NPOをテーマに据えながらデータジャーナリズムの取り組みが先進的で、何度もピューリツァー賞を獲っている調査報道メディアのPropublicaも気になります。
 

メディアはあくまで「手段」 

大熊 佐藤さんの根本的なテーマと繋がっていますね。最近日本でも大流行している「バイラルメディア」については、TwitterFacebookで拡散させ大量のトラフィックを稼ぐ手法は評価しつつも、メディアとしてどういう価値を生み出すのかには懐疑的なのかな、と見受けられますが。

佐藤 そうですね、僕はメディアとは何かを伝えるため、何かを実現するための手段だと思っていて、とにかく流通させることだけに主眼を置いたバイラルメディアの中にはその手段が目的化したものもあるなと感じます

でも手段として優れているのは確かで、一番アメリカで成功しているバイラルメディアである「BuzzFeed」は調査報道をしていますよね。このコンテンツは、BuzzFeedが主に扱っている「猫画像」とか「クイズ」のような軽いコンテンツの隣に、本当に軽く配置されています。
ばずふ

バズってる猫画像を見るために集まった人が調査報道も読んでいき、硬派な記事でも多くの反響が得られるというのは重要ではないでしょうか。
逆に朝日新聞の「吉田調書」のスクープなどはコンテンツの質も圧倒的ですが、ほぼ何もないところからバズを起こすという意味では大変で、採算が合わない可能性も高いわけですよね。
そういう意味ではBuzzFeed的な"コンテンツを出す軽さ"って大事だと思います。 
 

GunosySmartnewsは使ってない

大熊 「どう伝えるか」より「何を伝えるか」があくまで最重要。でも、伝え方が広まったことで出来るようになったことも確実に増えていますね。
最後に、佐藤さんの情報収集の仕方についてお伺いしたいです。「メディアの輪郭」で紹介されている海外トレンドに限らず、国内のメディア業界の記事もすばやく見つけてきてコメントされているイメージです。
Gunosy
Smartnewsは使っているんですか?

佐藤 GunosySmartnewsはスマートフォンに入ってないです。注目しているメディアやジャーナリストをまとめたTwitterリストを使ってニュースを仕入れています。まだ自分でキュレーションした方が質のいい情報が集まっている気がします。

大熊 そうなんですか。でも、NewsPicksはよく使用されてますよね。
 

佐藤 NewsPicksについてはニュースアプリというよりはコメントコミュニティと捉えています。

このまま荒れないコメントコミュニティが作れると凄いですね。

(了)


彼がメディアを追い続けるとってもアツい動機が分かり、業界観や実際のニュースの仕入れ方なども明らかにすることができたインタビューとなりました。