新卒で朝日新聞入社後、法律事務所勤務などを経てニコニコ動画のコンテンツ「ニコニコニュース」の編集長を務め、現在は「弁護士ドットコムトピックス」というウェブメディアを手掛ける亀松太郎さん。前後編に分けてお送りするインタビューの前編では、 紙とウェブの両方のメディアに関わった経験を持ち、特にウェブメディア事情に明るい彼が注目しているウェブメディアについてうかがいました。
kameさn

ネットならではの面白さ「市況かぶ全力2階建て」

大熊 作り手としても読み手としてもウェブメディアに明るい亀松さんが、いま注目しているウェブメディアは何ですか?

亀松 2つあって、1つは株関連のニュースに対するTwitterの反応をまとめて流す「市況かぶ全力2階建て」です。
2月に大雪があって、交通機関がストップして山梨県で住人が孤立してしまったという出来事がありましたよね。あれは報道陣も現場に入れなかったわけですが、停まってしまって閉じ込められた電車の中からTwitterを使って、実況ツイ―トする人がいました。
「市況かぶ」はその一連のツイートをまとめて流したんですよ。


kyapu1

これが現場からの差し迫るリアリティがあって、よくできたルポタージュっぽい仕上がりになっていました。非常に価値がある現場の声ですが、テレビや新聞では伝えられないんです。なぜなら、裏を取っていないから。
「市況かぶ」もそうですがネットメディアはそんなことお構いなく流しちゃいます。もともと株のニュース流しているところがなんで災害報道やってるんだという話ですが、その柔軟性こそがネットにしかできないことかなと思いました。

オウンドメディア「弁護士ドットコムトピックス」の戦略

亀松 そこにヒントを得て、私が編集長を務める「弁護士ドットコムトピックス」でもコンテンツの幅を広げ始めています。
bentokpi

大熊 最初はニッチな法律相談を扱うメディアだったのが、STAP細胞問題とか遠隔操作事件という世間の注目を集めている事件について法的な視点から語ったり、記者会見の書き起こしにもチャレンジされていますね。

亀松 そうなんです。まずは「何か法的な疑問がわいたときに来てもらうところ」というのを目指していますが、それをやったうえで、社会に関する問題なら何でも扱えるだろうと思っています。
特に今は何か事件が起きた時の解説を行っていますが、これは事後的ですよね。
でも、本当は平時にも法は動いています。平穏に見えて実は離婚のことを調べていたりとかね(笑)
。なので、平時からちょっとした疑問を持った時に見てもらえるサイトにしていきたいですね。

大熊 便利だし、僕自身も何か事件が起こった時にはここを観るという習慣がついてきているのでとても重宝しているメディアなんですが、残念ながら編集部員を何人も雇えるほどの収益を上げることは難しいのかな、とも思います。PVは月間300万程度で、バナー広告以外のマネタイズ方法は現状ないですよね。
benntopikamituki

亀松 「弁護士ドットコムトピックス」は元々オウンドメディアですから。「弁護士ドットコム」の本来のコンテンツは日本全国の弁護士に関するデータベースと、法律の質問のQAです。こちらは一部を有料サービス化していてマネタイズしています。その知名度を上げるために始めたのがもともとなので、そこまで収益化は考えていませんでした。それでも広告がついてきて、今は単体でも収益化が見えてきました。

大熊 なるほど!それではこれからも、このまま続けていくというイメージですか?

亀松 今後、一部有料化や、書籍化で稼ぐことは考えられます。特に書籍化。いい編集者がいたら、紹介してください(笑)

大熊 コンテンツとしては今後どういったことをやっていきたいですか?

亀松 ニュースの解説番組を動画でやりたいですね。それから記者会見を生中継もやりたいです。動画とも相性がいいコンセプトだと思うので。

大熊 「弁護士ドットコムトピックス」、本当に色んな可能性がありますね。

亀松 そうですね、幅広くやっていきます。とにかく面白いことをやったら何でも支持してくれるのがネットらしさだと思います。一方で既存メディアは、「朝日らしさ」「日経らしさ」というブランドに縛られがちだと思うんです。
だから新しいことを始めても受け入れられなかったり、始められなかったり。
とにかく大手ができないことをゲリラ的にやろう、というコンセプトでやっています。

ネットの「遺跡発掘」を行う「ログミー」

亀松 もう1つ注目しているウェブメディアは、動画の書き起こしサイト「ログミー」です。

大熊 ここは非常に来ていますよね!ウェブメディア業界の人に会うたび、みんな推しています。

亀松 実は書き起こしというコンセプトは僕がニコニコニュースの編集長をやっていた時代に検討していて、ちょっとだけやってたこともあるんですよ。やはり生放送だけではリーチできる人数も限られるし、コンテンツを再利用しないのも勿体ないので。
全文書き起こしはときどきやっていて、出演者にも褒められたりしたんですが、コストが結構かかるので、そんなに頻繁にはできませんでした。だからニコニコニュースでは、どちらかというと、番組の面白いところを切り出すダイジェスト的な記事を掲載していましたね。
rogumi

大熊 そうだったんですか。それが今や大うけしていて、悔しいですね。

亀松 悔しいというよりは、ログミーは面白いことをやっているなあと。何が凄いかと言うと、3年前とかの古い番組を掘り起こしてきて、それが大うけしていることですね。「遺跡発掘」という感じです。ネットはフローでどんどん流れちゃうので、それを発掘するっていうのはすごく面白い。
利点はまだまだあって、音声は今のところグーグルの検索が拾えない部分ですよね。それに目を付けて、検索が効くように文字化しているという点が一つ。もう一つはコスト構造で、生放送中に同時通訳をするのは大変ですが、過去の動画から書き起こすのだと手間がそこまでかからないんです。それに今はクラウドソーシングが発達してきていますから、外国在住者に1回1000円とかでやってもらうことも可能かもしれない。

大熊 昔の面白いものを発掘して見せる これも「編集力」ですよね。

亀松 その通りです。そのあたり川原崎編集長はうまいなあと思います。 

(後編に続く)

「5年後、ジャーナリスト独立の時代は来るのか」というテーマを問うた後編については、
明後日掲載の予定です。