「オレたち、すごくね?」キー局内定者飲み会での傲慢トークの一部始終 

元テレビ局員の水島さんが書いたこの記事がとにかく読まれまくっています。
メディア業界論の観点からも、キャリア論の観点からも突っ込みどころが満載だからですね。

・ 先輩より - 長谷川豊
テレビ局内定者の前途は真っ暗なんだが。。。 - 渡辺龍太

これに対する反応で、元フジアナの長谷川豊さんが「半数以上はコネなんだから両親に感謝しなさい」というのも面白いですが、渡辺龍太さんの記事で「最高に良くて現状維持でしかなく、それも、相当難しい」から「前途は真っ暗」という話も目にとまります。
本当にそうなのか?を考えてみました。
その前に、そもそもなぜテレビ局が今のところ「勝ち組」で、キー局の平均年収1500万!という世界なのかをおさらいしましょう。

昨日、東大で「メディアコンテンツ特別講義」という講義がありました。僕は参加しなかったものの、「#utmc1」というハッシュタグで授業を追えます。メディアやコンテンツ産業の未来を実務家に語ってもらおうという企画です。この日は、DeNA取締役の小林賢治さんがいらっしゃったようです。
小林さんは、クリエイターとユーザーをなるべく直接繋げるプラットフォームを創りたい、アンチ中抜きだと標榜します。モバゲ―もそうですし、創作物のプラットフォームであるエブリスタや、今はやりのマンガボックスもコンセプトは同じです。その文脈で、こういう発言が。
テレビのコンテンツを創ると言ったときにテレビ局は、ディレクターをつけて企画まではします。しかし実際に番組を創るのはほぼ下請けの制作会社で、ここの給料は極端に低い。例えばアニメ「進撃の巨人」のクオリティは物凄いですが、クリエイターは死ぬほど働いて創って月収20万とかいう世界です。

なぜテレビ局の方が圧倒的に厚遇されるのか?「箱」を持っているからです。日本中の人にリーチできるテレビ、そこに放送できる権利を持っているからです。しかも電波法によって、寡占されている。この箱があるから、クリエイターも作品を持って行かざるを得ないし、広告代理店やクライアントもここに押しかけてきます。一番金が集まるところだから、大きく中抜きできます。

ゆえにテレビ局にとって一番大事なことは、この「箱」を何としてでも守ることでした。表面上はディレクターが偉いことになっているけどそれは「士農工商」のようなもので、実際は激しい体育会系的な営業でクライアントを維持したり、寡占の仕組みが崩れないように総務省とよろしくやることこそが決定的に重要でした。
だから、テレビ局の収入が減ってくると真っ先に削られたのは番組制作費です。例えば自動車業界が不況だからといって、より質の悪い自動車が同価格で売られるなんてことはまずありません。「カイゼンだ」「乾いたぞうきんを絞れ」といって品質改善に取り組みますが、テレビ局は違います。ぶっちゃけ箱が維持できて、倫理的に問題なければコンテンツは劣化してもよかったからです。

僕はここに「だからテレビ局はクソだ」というような価値判断を持ち込む気はありません。
作り手ではなくプラットフォームを持っている側が圧倒的優位で稼いでいるというのは、GoogleだってAmazonだってそうです。
戦後作られたテレビ局のビジネスモデルは完璧といっていいほど頑強で、マイナーチェンジはあれど下手に動かすことはこれまでは非合理的でした。体育会系的な営業の文化なども、模倣可能性が低く「守りの戦略」としては理に適っています。

しかし、IT業界の生み出したイノベーションのうねりが、テレビ業界にも押し寄せてきました。
渡辺さんが記事にかかれたように、Appleがテレビを販売し、Amazonがテレビ番組を会員向けに作り、GoogleもChromecastでテレビ画面の在り方をがらっと変えに来ています。
箱を維持さえすればマスに向けてコンテンツを打っておけばよかった牧歌的な時代は終わりました。スマートフォンという新しいデバイスもまた、テレビを観る時間を奪っています。

ここで、ひたすら「守り」に徹してきたテレビ局も、今持っているリソースを再定義して反転攻勢に出る段階です。

既に日テレがネット動画サービス「Hulu」を買収し、フジテレビも「フジ・スタートアップベンチャーズ」 というベンチャーキャピタルを設立してスマホ関連の有望なベンチャーを買い漁っています。有料チャンネルもどんどん進歩していますね。
まだまだ潤沢な資金と、全国の人が見るテレビという仕組みを使ってやれる新規事業は無数にあります。
hulu

寡占が崩れる以上テレビ局のパイは小さくなる可能性が高いですが、「新しい仕組み」を創ってそこに面白いコンテンツを載せ、視聴者をより楽しませることが出来る人材にはこれまで以上に賃金が払われてもいいと思います。
一方で、もはや崩れた「守り」の文化をそのまま継承するしかない人材を厚遇する理由は薄れるという、健全な体制が、今のところは空絵図だとしても描けます。

だから、これからテレビ局に入る人は、劇的な変化にさらされるという意味で大変だけど、一方でチャレンジングだと思うのです。

このあたり、キー局内定者の人はどう考えているんでしょうか?ぜひ聞いてみたいです。(友人づてに内定者にインタビューを申し込んだところ、「匿名で特定されない内容であっても人事を通さないと」と言われ、不自由そうだなと感じました。)