ニュースピック

「ニュースアプリ」から交流が生じたワケ

先日、「NewsPicks」というニュースアプリの愛用者たちによる交流会に参加してきました。

この一文だけでもかなり不思議な響きがあります。他のニュースサービスについて非公式なオフ会をやることはまずないでしょう。Gunosy会とかヤフトピ会とか。

しかしNewspicksは元々、集められたニュースに対してその分野に詳しいユーザーの鋭いコメントが読めるというのがウリでした。プロ以外でもコメントするには一定の緊張感を持たざるをえないよう設計されていて、鋭い発言をすると評価されます。実名と職業も原則皆さん公開していますが、大学生でも大量の支持を集めるユーザーが出てきています。
そうした空間なので、「あのコメントをする人に会ってみたい」「あのニュースについてメンバーと話してみたい」となるのは自然な流れだったとも言えます。

6/2は忘れられない日に。第一回NewsPickers Meetup!!!を開催しました。

交流会で印象的だったのが、「Twitterで政治経済に関する意識高いことつぶやいてたら周りから気持ち悪がられたけどNewspicksなら歓迎される雰囲気があった」という参加者の発言です。そうした「アツく意識高い会話をしたいニーズ」を上手く拾っているメディアだと言えます。

「意識高い人」と「オタク」の意外な類似点

他のメディアで似たようなものはないかな?と探したら、「世界標準マガジン」を標榜するハイソなビジネス系雑誌である「クーリエ・ジャポン」でも、読者による朝食会イベントをやっていました。
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落込みが続く経済誌業界の中で善戦しているクーリエは、ネットが代替できない「手元においておく価値がある」書籍的なつくりにしたことも勝因でしょうが、読者が自発的に集まりたいと思うほどのブランディングに成功したのも大きいはず。

二極化構造強まる…ビジネス・マネー系雑誌部数動向(2014年1月-3月)

「オタク」という属性の集団も、作品などを通して知り合ったらリアルで会おう、という流れになることが多く、ニコニコ動画やpixivの成功を支えているコミュニティ意識を生んでいますが、ある種対極的といえる「意識の高いビジネスマン」層も、メディアで出会って盛り上がったら会おう、となりやすいようです。

単なる「コンテンツ配信」に止まらないあり方

交流会初回は30人限定で行われましたが、その後非公式のFacebookコミュニティに140人以上が参加し、はやくも第2回や関西での開催をしたいとの声が挙がっています。こうしたユーザーのアクティブ度合いは物凄いです。
これだけユーザーの熱意の高さがあれば、例えば公式で著名なユーザー(ホリエモンさんや夏野剛さんなど)を呼んで有料のカンファレンスを開くことも可能でしょうし、うまく設計すれば独自路線でビジネスSNSにする道も開けるでしょう。○○業界について造詣の深いコメントしていた△△さんに似た件の仕事を依頼してみよう、という流れは容易に想像できます。

海外ウェブメディアにおける2つのトレンド---大手メディアからの独立と定額課金

アメリカの事例では、「Re/code」というテクノロジー系の新興メディアが、なんと参加費数十万円ものカンファレンス事業をしており、重要な収益源になっています。

これからのメディアのあり方として、単なるコンテンツ消費サービスにとどまらない姿が提示していけるかは極めて重要だと思います。
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僕がこのブログでよく使うグラフをまた用います。出版業界の市場規模はひたすら右肩下がりで1.7兆円弱にまで落ち込みましたが、例えばイベント市場は2.4兆円程度あってここ数年は横ばいです。ビジネスSNSは未知数の分野でLinked inだけでも時価総額2兆円近い世界です。そう考えるとまだまだチャンスがありますよね。
市場規模
(平成17年は愛知万博の特需?)

一端話が脇道にそれますが、そうした文脈で捉えるとハフィントンポストが先日行った一周年イベントの意義も違った角度から見えてきます。
このイベントのテーマは「未来のつくり方」でしたが、よく松浦編集長が他の講演会で話されているような「ウェブメディアの未来」「マスメディアの未来」とは全く関係ないものでした。メディア関係者で講演を聴きにいき肩透かしを食らった人もいるかもしれません。
しかし読者層である団塊ジュニア世代に刺さる「育児」の話題に焦点をあて、女性の働き方やイクメンなど読者層の未来について語ったことはある種必然で、とても正しいことのように思えます。
今後どんどんイベントを開いて、「健全なリベラル」という世界観をリアル空間に拡大させていけるのではないでしょうか。

課題は「ニコニコ動画」のような空間を設計できるか

さて、NewsPicksの今後の課題はユーザーが増えてマス化した時の対応でしょう。「意識の高い発言が尊ばれる」という心地よい空間は、ユーザー数が数百万になったときに維持できるのでしょうか。ニュースアプリでいうと、Gunosyは割り切ってエッヂの利いたサービスからマス向けに転換し、事業としては成功しつつあります。一方で、先見的な初期のユーザーからは「アンインストールした」との声も聞こえてきます

ここで参考になるのは再び「ニコニコ動画」です。これも最初は完全にオタク向けの空間でした。しかもオタクはおそらく意識高い層以上に「にわか」へ過敏な嫌悪感を示します。それでも3000万以上の会員と200万以上の有料会員を抱えるようになり、一般的な知名度を確立したのは、絶妙な有料課金によるサービスの棲み分けと、良質なコンテンツが評価されて残っていく仕組みを設計できたからです。
NewsPicksでも同様のことができるか、これからの運営の手腕がまさに問われます。