5月21日、東洋経済オンラインの編集長を務める佐々木紀彦さんが、株式会社UZABASEが提供するニュースサービス「NewsPicks」事業で新しく発足する編集部に移籍することが分かりました。

東洋経済オンライン佐々木編集長、ニューズピックスへ

佐々木さんは東洋経済の紙の記者・編集者としてのキャリアや米国留学の経験を積んでから東洋経済オンラインの編集長に就き、そのPV数を10倍増させ経済誌のオンライン版トップに押し上げました。

その経験に基づいてメディア業界の未来を論じた「5年後、メディアは稼げるか」は今や紙・オンライン問わずメディア業界関係者の必読書となっています。

そんなスターが移籍する先である「NewsPicks」は、乱立するニュースアプリの中で一味違った存在感を放っています。

UZABASE社長・梅田優祐氏"ニュースアプリも企画力勝負の時代へ"

欲しい分野のニュースが自動で届けられる仕組みは他のニュースメディアと同じですが、他と異なるのはそこに大学教授や一線級のビジネスマンによる高質なコメントがつき、理解が助けられるところです。サービス開始から僅か8か月でありながら、ビジネスマンを中心に熱狂的な広がりを見せています。このサービスを率いるUZABASE社の梅田優祐社長は、コンサルティングファーム・投資銀行出身の経歴を持ち、「世界一の経済メディアを目指す」という野望を掲げています。
cb54e45644cf931df17258221b19a373
(NewsPicks公式サイトより)
僕は梅田さんに4月末にインタビューし、5月初頭に佐々木さんに大学の講義でお会いした際「2人は連携するのでは」と感じていました。その背景を「プラティッシャー」というキーワードを基に解説し、今後を占ってみます。

2人の共通認識「プラティッシャーが業界を制す」とは

メディア業界を、「プラットフォーマー」と「パブリッシャー」に分けます。「パブリッシャー」はコンテンツを生産して出すところで、経済系なら日経新聞や東洋経済……から、個人のブログまでが当たります。「プラットフォーマー」はそれらのコンテンツを集めてキュレーションし、ユーザーに提供する媒体です。最近はやりのGunosyやSmartnews、そしてNewsPicksもこれに当たります。
佐々木さんがよく講演などで述べるのは、この両者の融合です。プラットフォーマーとして様々なコンテンツで読者を集めつつ、独自のコンテンツで勝負する媒体が最終的に生き残るというのです。

梅田さんも、「Tの字モデル」という言葉で同様の概念を提唱しています。プラットフォームを巡る争いはコモディティ化を免れず、いずれ数プレーヤーが残って独自コンテンツで勝負するフェーズがくると言うのです。
乱立するニュースアプリが繰り広げる流通を巡る競争は、「ニュースを集めてうまく見せているだけで、コンテンツを創ってないじゃん!」と、批判される向きもあります。しかしプレーヤーの多くはコンテンツを考えていないわけではなく、「まず流通を押さえ、それから独自コンテンツの生産へ」という理念に基づいて戦っているわけです。

プラティッシャーになると何がいいのか。流通を押さえたうえで、価値のある独自コンテンツをどんどん出していけます。そのビジネスモデルには色々考えられますが、記事広告の他に、有料課金もできるでしょう。現状プラットフォーマーは主にトラフィックの量に応じたバナー広告で稼いでいますが、これはひたすらフローを追い求めて時には炎上も誘発もしてしまうような仕組みと言えます。有料課金モデルが成立すれば、「いいコンテンツに相応しい対価が支払われる」という健全な姿になります。

パブリッシャーからプラティッシャーは難しい?

さて、佐々木さん率いる東洋経済オンラインは、パブリッシャーの立ち位置です。

プラティッシャーこそwebメディアが勝つ方法だ」佐々木編集長が語る東洋経済オンラインの戦略

上記のインタビューで用いられた論理では、プラットフォーマーとして圧倒的に強いのは「Yahoo!」で、ニュースアプリは勝てない。一方パブリッシャー側の東洋経済は、外部メディアの記事や外部のコラムニストによる執筆を増やし、プラットフォーム側に近づいていけるとされます。

しかし、現在までで東洋経済オンラインはその試みに行き詰っているようにも見えます。プラットフォーマー化の目安となる月間1億PVには遠く及ばない5000万PV前後で最近は推移しています。
c5461c4d13c30091520ef43fd1463550
(「東洋経済オンライン」トップページより)
勿論、動画も開始するなど、収益化の面で様々な新しい取り組みはされていますが、やはりもともとあった本誌「東洋経済」とのブランドの兼ね合いで、完全に自由には出来ないこと、そしてアプリやソーシャルなどやはり流通部分を担える人材が薄く、弱いことが原因だと思われます。

対するNewsPicksは、プラットフォーマーの立ち位置から伸び続け数十万のユーザーを獲得し、有料版も開始するなど進化を続けています。そして、7月にはいよいよ編集部を発足させると公言していました。

まとめると、これまで

東洋経済には ○コンテンツ企画力・既存のブランド  があり、×アプリ・ソーシャルの流通力  がない
NewsPicksには ○アプリ・ソーシャルの流通力 があり、 ×企画力・既存ブランド  がない


という状態でした。佐々木さん・梅田さんは共に現在のメディア業界を「100年に1度の変革期」と呼び理念も近かったので、先日行われた角川とドワンゴのような提携が来るのかな?と予想していました。
しかし提携ではなく佐々木さんの移籍という形となったのは、「プラティッシャーになるのはプラットフォーマーから」を示す一例と言えるのではないでしょうか。

NewsPicks覇権への鍵を握る、日経新聞の動向

さて、今後を左右するのは、日経新聞電子版がどう動いてくるかです。ここは圧倒的な既存ブランドを持っています。東洋経済オンラインの月間5000万PVに対して約3億PVというと規模が分かるかと思います。4000円の有料課金モデルで30万人の読者も掴んでいますし、まさに経済メディアのラスボスですね。集めているニュース・著者の網羅性からも、パブリッシャーとして最強です。佐々木さんは東洋経済オンラインではひたすら日経がやらないことをやってきてニッチに成功しましたが、日経が本格的にニュースアプリもやってきたらどうなるでしょう?
80d45d63163b44cb9d185a9ef57b93f1
(日経新聞広報部より)

すでに3月に、日経は経済ニュースのキュレーションサービスを開始しています。注目すべくは、最初から有料版で打って出ているところですね。NewsPicksと棲み分けていく可能性もありますが、梅田さんが「世界一の経済メディアを目指す」以上、いずれぶつかることは不可避化かと思います。

ジャーナリスト独立時代の幕開け?

記者・編集者独立の時代が来る、と主張されていた佐々木さんは、今回身をもってそれを体現しました。

「記者独立の時代、5年で来る」佐々木紀彦編集長に聞く 

10年近くも前から、元「AERA」編集長の蜷川真夫氏が「J-CASTニュース」を立ち上げるなどの動きはありましたが、ここから一気に人材移動が加速化することはあり得るのでしょうか?
ここから一気に人材移動が加速化することはあり得るのでしょうか?
ごく短期的なポイントでは、NewsPicks編集部が他にも魅力的な記者・編集者を呼び込めるか、そして他のプラットフォーマーがプラティッシャー化に乗り出したときに、どれだけ強く人材を引き込めるかに注目すべきです。
これらすべてが今年中に起きるとみています。