UZABASEという会社をインタビューしてから考え続けていることがあります。

UZABASE社長・梅田優祐氏"ニュースアプリも企画力勝負の時代へ"

この会社が出しているニュースアプリ"NewsPicks"のコアバリューは、大学教授や一流ビジネスマン、その他ユーザーに評価された書き手といったオーソリティーがニュースを見つけ、それを解説することでニュースの発見と理解が同時に満たされる点にあります。
このサービス、ありそうでなかった仕組みです。ニュース以外でもこれを出来ないか?と考えています。
例えばこれを書籍でやってはどうでしょう?

まず、"理解"の側について。
書評を書くブロガーや、アフィリエイトを稼ぐために本を紹介するブロガーはごまんといます。大学教授やビジネスマンも、「この分野についてはこれを読むべき」「この時期にはこれを読んでおくべき」という意見を持っています。でもそれらはバラバラに分散していて、うまく見つけられない場合があったり、アフィリエイト収入を目的とする以上宣伝目的が強くなってノイズが多かったりします。一方、Amazonのレビューは一度は目を通しますが、基本的に匿名で、決定的な信頼感には欠けます。「他の要因で購入を決め、Amazonレビューは一応チェックする」が主な使い方ではないでしょうか。

書籍紹介サービスもすでに色々あります。
ブクログ - ウェブ上に本棚をつくるサービス
読書メーター - 読んだ本・読みたい本を管理し、他人の書評も読めるサービス
ブックビネガー - ビジネス書を分かりやすく推薦してくれるサービス

或いは、テーマごとの単なる紹介ならばNAVERまとめも役立ちます。

プログラマーが読むべき本まとめ

でもどれも、"信頼のおける人からの発見と理解"を満たしてはないのでは、と思います。
このご時世に、わざわざ数千円を払って本を買うには、心もとない。
実際、これらの書評やまとめサービスよりも友人の生のおすすめによって買うという習慣がまだあります。

そこで、ある本について、信頼のおける人が様々なコメントを寄せ、時には議論する、といった形で本の紹介が出来れば、読み手の購入の意思決定にもっと役立つのではないでしょうか。
これによって、良書が著名人によって発掘・紹介されてユーザーに届くという流れが生まれるのが理想です。

書籍の"発見"で現在圧倒的な力を持っているのはやはりAmazonです。
けれども「閉じこもるインターネット」でも指摘されているように、大量のデータを集めるAmazonによるレコメンドでパーソナライズが進めば進むほど、"セレンディピティ(偶然の出会い)"はどんどん失われています。



しかし、そもそも読書体験とは、思いがけない良書との出会いや本を通じた読者同士の出会いというものに相当の価値を認めていたのではないでしょうか?

集団読書のススメ
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(スタジオジブリ「耳をすませば」)

データに基づいてなんでも的確すぎるおすすめをしてくるフィルターバブルの、その無機質さへの違和感を覚える人は潜在的にたくさんいるはずだと思います。それは即ち、解消するニーズがあるということです。
ここで、Amazonに「勝つ」必要はありません。大量のデータを集めて、うまくフィルタリングしてくれるという主流のニーズはAmazonが担ってくれればよくて、それで拾いきれない需要が形にできれば、補完しあえます。


「ウェブとはすなわち現実世界の未来図である」にもあったとおり、ファストフードに対してのスローフードのように、速すぎるウェブに対しての"スローウェブ"が出てきつつあるそうです。ファストフードもスローフードが棲み分け・共存をしているように、スローウェブも定着していくでしょう。
過度のパーソナライズに対する、人間らしさも同じような揺り戻しとして起きるのではないでしょうか。
無味乾燥なAmazonのレコメンドとレビューから得られないものは、知人や先生・著名人のレコメンドで満たす。それをうまく集約すれば価値のあるものができると思います。

そうした「揺り戻し」の需要を正確に見抜き、サービスの形にできる人は素晴らしい起業家です。