デジタルコンテンツを配信するピースオブケイクという会社が「note」なるサービスを始めました。

これは一口で説明すると"誰もが自由に表現をして、それに対して自由に有料課金できるサービス"です。

田端信太郎氏などメディア界隈の人々がこぞってこれに登録しだしたので、この流れを解説してみたいなあ……と考えてたところ、
「そうだ、ネットメディアの課金の流れは、進撃の巨人になぞらえて説明できるんじゃないか!?」と謎にひらめいたので今回の記事を書いてみました。

巨人=ネットメディアによる進撃の歴史

いいかんじの出版
(電子書籍情報まとめノートより)

1990年代後半まで、出版・新聞業界は平和に暮らしていました。
競争が激しいとは言っても、戦う相手は見えていて、慣れ親しんだものでした。
ところがそこにネットメディアという全く異種の"巨人"が突然あらわれたのです。
巨人の大群
(「進撃の巨人」アニメ版より)
これらはすべて無料であるとか、分量に制限がないなど、それまでの紙の出版業界の常識が全く通じないもので、(=巨人に知性は通じない。)とにかく大量に生まれました。
それでも最初は質が低かったり、ばらばらで有益なものが探しにくかったので脅威は薄かったのですが、情報をうまく編集するメディアが沢山登場して状況は一変します。
例えば「Googleニュース」さえ見ると、最新のニュースの一覧が読み比べられるという状況になりました。新聞社が手間隙かけて作ったコンテンツはアルゴリズムによって無料で並べられ、そちらに読者が流れたのです。
FacebookやTwitterによるシェアも本質は同じです。
こうして新聞・雑誌のコンテンツをネットメディアは駆逐していったのでした。
z03
(電子書籍情報まとめノートより)

そこで新聞社のオンライン版はそのコアとなるコンテンツ部分に”課金の壁”を築き、そこで暮らすことにしました。
日経新聞課金の壁
(日経新聞電子版より)
こうすればGoogleニュースにまわされることもありません。しかしこれによって得られる収入は今まで紙で得ていたものなどとは桁違いに少ないです。とても大勢を食わせていけるほどではない……。

調査兵団=既存マスコミの電子版による反攻

壁外調査
(「進撃の巨人」アニメ版より)
こうした状況に直面して、既存媒体の電子版が外の世界、すなわち無料文化とテクノロジーが支配するネット世界に飛び込んでいく動きもあります。
読売新聞社「発言小町」などはCGM(ユーザーがコンテンツを生成する場)として先進的な動きといえるでしょう。朝日新聞社も社内ベンチャーの「朝日新聞メディアラボ」を立ち上げ、講演会や勉強会を多く開催しています。
これはまさしく調査兵団ですね。しかし現段階での成果では、壁の中の業界人をすべて養うには程遠いです。

突破された「ウォール・動画」

3つの壁
(「進撃の巨人」1巻より)
さて、進撃の巨人の世界でも「3つの壁」があるように、メディアの世界にも課金の壁は多段階あります。
まず、様々なアダルトコンテンツが、動画という分野で既にネットコンテンツの課金に成功していることは周知の事実です。
ニコニコ動画も、プレミアム会員200万人以上を数え、繁盛しています。2005~2007年ごろに端を発したこうした流れにより、まずは「動画の壁」は突破されたといってよいでしょう。

主戦場となる「文章の壁」

次なる壁は「文章の壁」です。ネットの文章にお金を払えるのか?ということですね。
こちらに関しても、いくつかの成功事例が出つつあります。
例えば「vorkers」のような転職サイト。転職経験者の生の声が、部分的に明かされつつも続きは有料会員登録で、という「課金の壁」に覆われています。
ぼーかーず
(vorkersより)
MyNewsJapan」というサイトにも注目です。広告を一切載せないことで企業の内部批判記事などを有料で配信しています。月額1800円の会員を2千人以上抱え込み、黒字とのこと。

こうした付加価値が高く、集約された情報に関しては「文章の壁」も突破されました。cakesがもともと売り出していた"著名人の発信プラットフォーム"というコンテンツもここに位置づけられるものです。

ところが今回の「note」は、動画・音楽のみながらず文章に対しても個人単位で、自由に課金額も設定でき、その範囲も指定できます。このモデルが成功すれば更に1つ壁が突破されたといえるでしょう。

もちろん個人の発信に課金するという試みは別に「note」が初めてなわけではありません。
動画がはやりだしたのと時を同じくして2006年、有料メルマガブームというのがきていました。

有料メルマガをやめました 我が動員とマネタイズ敗北宣言-常見陽平

しかし上の記事にあるように、これで十分な収益をあげたのはホリエモン氏や佐々木俊尚氏などきわめて限定的でした。「金を払ってでも著名人の文章が読みたい」という読者は少なく、壁は超えられなかったのです。

それを踏まえて、今回「note」がどう壁を突破していくのか、あるいは突破できないのかは注目に値します。

依然、憲兵団=紙が牛耳る壁内

ところでマスコミの”壁の中”はどうなっているのでしょう。依然、主流は紙ベースです。東洋経済オンライン編集長である佐々木氏も、自著「5年後、メディアは稼げるか?」で
ウェブに担当が変わった際、その旨を同業界の知り合いに伝えたところ、複雑な表情を浮かべていました
と述べています。


これはまさに進撃の巨人でいうと、訓練兵団で優秀な成績を残したものが調査兵団(デジタル編集部)に行かず、内地の王を守る憲兵団(紙の編集部)に行くのに似た状況です。
憲兵団
(「進撃の巨人」アニメ版より)

メディア人の反撃はこれからだ?

今後の流れで興味があるのが、「調査兵団」=既存大手マスコミの電子版での取り組みがどこまで拡大していけるのかと、ウェブ媒体による課金がどこまで発展していくかです。
くいちらかされる
(「進撃の巨人」5巻より)
伝統的な大手メディアで改革が進まないうちにウェブの課金モデルが続々と成功していくようであれば、それは今大手が保っている「ブランド」の価値も崩落したことを意味します。要は僕たちが読むものとして「○○新聞社」発であることに特別の価値を感じなくなるということです。
ここまで進むのか、どこかで行き詰るのか。
はたまたネットメディアでの挑戦が新たなモデルを生むのでしょうか。

一縷の希望は、必ずしも大手メディアはネットと敵対する必要はないということです。新聞社の記事がネットで反響を呼び好循環を生む例も出てきています。兵士が巨人になることも巨人を操ることもあり得ます。これをどう活かして行くかが鍵でしょう。

これからも当事者として観察と分析を続けていこうと思います。