メディア・クエスター

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2014年12月

リフォームやインテリアなど「住」関連情報を雑誌のような記事形式で届けるメディア「iemo」と、
ファッション・メイク・コスメなど女性向けの「衣」関連記事を提供するメディア「MERY」。
これらの運営会社を10月1日に総額約50億円で買収したDeNAが、食卓のアイディアを伝える「食」関連メディア「CAFY」を開始しました。

DeNA、食のキュレーションプラットフォーム「CAFY」の提供を開始

買収先の創業者である「iemo」村田マリさんを執行役員に加え、社長自らが「ゲーム事業と同価値を目指す」と語った「キュレーションプラットフォーム事業」の第一弾となります。

DeNA守安社長インタビュー【後編】「キュレーションプラットフォーム事業はゲーム事業と同価値を目指す」 

これまで「衣」、「住」ときていたので次は「食」メディアを設立ということ自体は何の驚きもない極めて自然な流れですが、もう少し大局的に見ましょう。「キュレーションプラットフォーム」という言葉には、IT企業にありがちな横文字の組み合わせでなく、もっと重要な意味が込められている可能性があります。単なる「プラットフォーム」とは一線を画しているのです。

ただの「雑誌の代わり」じゃない

買収される前、iemoを運営していた村田マリさんは、雑誌のリプレイスがやりたいと言っていました。
。広く見れば、昨年DeNAが始めて600万DLに達した漫画読み放題アプリ「マンガボックス」はマンガ雑誌のリプレイスだし、少なくとも去年からDeNAはこの戦略を構想していました。要するに紙の雑誌を読む代わりにネットで、とりわけスマホを使って読むようにさせたいということです。

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(引用元:http://www7b.biglobe.ne.jp/~yama88/info_2.html)

しかし、繰り返し引用してきたこのグラフ、もはや説明不要ですが雑誌の市場規模は恐ろしい勢いで落ちていく一方です。この市場の一部分を何割か代替したところで、目下売り上げ高2000億超のDeNAの「次の柱」足り得るのか?

ここで、「なぜ雑誌が売れなくなっているのか」という根本的な問いに戻りましょう。一番ポピュラーな答えは「ネットに可処分時間を奪われているから」でしょう。じゃあネットを使って皆何をしているのか?それは「ゲーム」だったり「SNSでのコミュニケーション」だったりしますが、「読み物」にも相当時間を割いています。ほとんどが無料でしかもどこでも読めるため、雑誌の需要を直接奪っているのはこれでしょう。
では、みんなネットで何を読んでいるのか?とりわけ「iemo」「MERY」「CAFY」のように分野をしぼって専門的な情報が得たい場合は?

ブログで情報を得るという人もいるでしょうが、多くの分野で中心は情報「プラットフォームサイト」ではないでしょうか。要するに、レストランを探したかったら「食べログ」や「ぐるなび」を使い、レシピが欲しければ「クックパッド」、就活情報なら「リクナビ」「マイナビ」、不動産関連なら「SUUMO」といった具合に。

ここで、「食べログ」や「リクナビ」はメディアなのか?という問いが生じます。これらのサイトは基本的に広告出稿料のもとで中立に情報が集められます。ユーザーはそれを見て口コミを書き込んだりと参加できますが、サービス提供側、つまり食べログをやっているカカクコムやリクナビをやっているリクルートは恣意的な関与を避けます。サービサー側の記者がおすすめの企業を書く「リクナビ」はありません。「プラットフォーム」の本質は無味乾燥な中立性、情報の集約にあります。もちろん既存の雑誌の中にもそういう類のものはありましたが。

しかし「キュレーションプラットフォーム」は違います。キュレーションとは「編集」のこと。「iemo」では、(その意思決定の過程にアルゴリズムの関与があるにせよ)編集部側が恣意的に見せたいリフォームや、インテリアの記事をライターに書かせて提供します。「CAFY」もきっと食の分野でそうなることでしょう。見せたい情報を切り取って読ませる。この方が「メディア」だと僕は思います。

「キュレーションプラットフォーム」は単に紙の雑誌を代替するだけでなく、それらから市場を奪っていた情報「プラットフォームサイト」からある程度市場を奪い返すのではないでしょうか。リクルート単体だけでも「販促メディア事業」と「人材メディア事業」(そうリクルートは「メディア」だと言っています)で計5892億円の売上げがあります。こう考えると確かに一大市場ですし、iemoとMERYの買収総額50億円という規模にも納得がいきます。

プラットフォームからメディアの時代へ

ではなぜ今になってDeNAがこの市場を開拓しにきたか。それはネットビジネスの趨勢を追えば必然と言えるかもしれません。

すなわち、これまでのネットビジネスはどこもとにかく「プラットフォーム」を獲るための戦いでした。一番初めにユーザーを大量に獲得して囲い込んでしまえば分野ごとに一番になれる。プラットフォーム側は莫大な利益を稼ぎ、それに従属したサービスは買いたたかれます。後発の戦略は「より分野をしぼる」や「ビジネスモデルを凝らす」でした。例えば人材領域においてはリクナビシリーズを有するリクルートが長らくトップでしたが、転職領域に隙間を見つけたリブセンスが「成功報酬型」という巧いビジネスモデルを組んで参入に成功しました。そういうことがあらゆる分野で起きています。

しかしプラットフォームを巡る戦いは疲弊してきました。究極的な頂点に立つプラットフォームはGoogle,Apple,Amazon,Facebookにしぼられ、下位のプラットフォームは目先の「ビジネスモデル合戦」でつぶし合っても、より上位のルール変更によって容易につぶれます。先ほど例にあげたリブセンスは、Googleからの検索流入に頼り切ったため、その検索システムの変更のあおりを受けて大幅に減益しました。

そして多くの分野でビジネスモデルも発明しつくされてきた感があります。そんなことないと言う人もいるかもしれませんが、ユーザーにとって価値のある差異が生めるほどでしょうか?最初に首位を獲れば圧倒的に稼げたはずのプラットフォーム競争は、いつの間にか差別化の難しいコモディティ競争になってきたのではないでしょうか。それもそのはず、本質が単なる情報の集約でしかないなら、技術力以外で差異化は困難です。

そこで「コンテンツ」の出番というわけです。恣意的な「編集」で情報を切り取り、書き手が主観も凝らした「分析」などの付加価値を提供することで他のプラットフォームとの差別化が実現します。
今後プラットフォームが行き詰まるほど、専門的な分野で、編集がいる・書き手がいるといった意味で「メディア」の黄金時代が来うるのではないでしょうか。
それは、ネットを使ったメディア消費に質的な変化が生まれるということを意味しそうです。

今年は、「新興メディア」が買収される事例が日本でもいくつも出てきました。

メディア・アクティビストの津田大介さんは昨年、ハフポスト日本上陸にあたって次のように語っていました。

メディアでビジネスをしたい。そして自分の作ったメディアを大きくしていきたい。僕がいろいろ実験的な活動をし始めた2006年ごろ、ハフィントンポストも産声をあげました。ハフィントンポストにはずっと注目はしていたんですが、個人的に衝撃を受けたのは2011年2月、AOLに260億円で買収されたことです。

ハフポストが示した「ネットメディアが金になる時代」の到来

米ハフポストの買収から3年半、今年8月に彼の手がけた「ナタリー」がKDDIに買収されました。

その翌月末には「iemo」と「MERY」という2つのウェブメディアが、DeNAによって被買収。さらに翌月の10月には生活情報サイト「nanapi」がKDDIに買収されました。

メディアを作り、数年間育てて十分なユーザー数がついてきたら数十億で大企業に売ってexit、というモデルが急速に確立されつつあります。今後もいくつか事例は出てくるでしょう。

メディアは買収対象としてものすごく勝手がいいのです。なぜなら、売り上げの規模の割りに影響力が大きいからです。

具体的な例を挙げれば、「弁護士ドットコムニュース」という、弁護士の視点から日々のニュースを解説するとても面白いメディアがあります。
このメディアの月間PVは1000万強。広告単価が1PV=0.5円程度と考えても、年に1億円も稼げません。しかしこのメディアのおかげで本業「弁護士ドットコム」の知名度はうなぎのぼり。メディアを持ったことだけが成功要因だというのは暴論にせよ、亀松編集長を迎え入れトピックスを作って以降本業は急拡大し、今年はマザーズ上場にまでこぎつけました。

メディアは、単体では大きく稼げない代わりに本業を強力にアシストする。

こういうことに日本の多くの企業が気づき、自社でメディアを持とうとしました。それが「オウンドメディア」と呼ばれるものです。

しかしオウンドメディアは先ほどの「弁護士ドットコムニュース」や「サイボウズ式」などを除き、目立った成果をあげられていません。そのことをイケダハヤトさんもその昔批判していました。

オウンドメディア(企業ブログ)が流行ってるけど、どれも面白くない件

理由は様々あるでしょうが、企業にメディアを作るノウハウがなく人もいない、代理店やメディアコンサルを介しているうちに面白くなくなる、ブランドを気にしすぎて代わり映えしなくなる、とかでしょうか。

だったら、外で面白いものを作った人が売ってあげればどうでしょうか?

売る側のメリットはたくさん有ります。そもそも「ウェブメディア」単体で稼ぐことは、少なくともしばらくは困難であり続けると思われます。それでも無理矢理ネット広告や物販に頼ろうとして粗製濫造になったり炎上というのがウェブメディアお決まりのパターンでした。

だったらどこかに所有されて、代わりにのびのびとコンテンツつくりに専念して真価を発揮しましょう。

ではどこに売るか?今主流なのが通信キャリアとメガベンチャー四天王(DeNA,GREE,サイバーエージェント,mixi)です。


KDDIはナタリー、nanapiを買収し、Gunosyに出資しています。
DeNAはIEMOとMERYを買収し、GREEとmixiはSmartnewsに出資しています。

通信キャリアは自社のプラットフォームに載せるコンテンツやコミュニティを欲し、業績が曲がり角を迎えるメガベンチャーは次のビジネスの柱として、盛り上がりつつあるメディア・スタートアップを手に入れようとしています。

でも今後はそっち向けにやらないほうがいい

というのも、皆そこめがけて飛び込むのでレッドオーシャンになるというのと、特にメガベンチャー側はそろそろメディアビジネスのコツを掴み出すころだと思うのです。サイバーは昔からやっています。DeNAもゲームと絡めたニュースアプリ、テックドールなどはじめました。

メガベンチャーの勝ちパターンというか基本戦略は、より小さく専門的なスタートアップを買ってビジネスモデルを学び、人材を得て(育成して)から、自製が可能になって、大企業より先に動いて大きめの市場もとるということになってくると思います。

今から準備して半年後ぐらいにメディアを始めても、もうメガベンチャーは多くの分野でメディア・ビジネスのパターンを確立する段階に入ると思うのでおすすめしません。

だから新聞社に売りましょう

彼らはネットで自社ブランドの地位を築くことに苦戦しています。新聞社では朝日新聞とか日経新聞が気炎を吐いて色々取り組んでいますが、これからを背負っていくビジネスの柱をつくるには程遠い。

たとえば朝日新聞の立ち上げた「withnews」。プロの記者が取材リクエストも受けながら若者向けに軽めの記事を書くというコンセプトで、立ち上げ半年で月間約100万人弱が訪れていると見られます。コストに見合っているかは不明なものの、ひとまず成功とは言えそうです。でもこういう事例を20個ぐらい作らないと新聞社は立ち行かないのではないでしょうか。

新聞社には、資金という圧倒的なリソースがあるにもかかわらず、内部に「ネット人材」が不足しているという致命的な問題があります。ジャーナリストが必死にネットビジネスを学び、頑張っているという状態で、それはすばらしい姿勢ですがより効率的なのはできる人を引っ張ってくることです。しかし社員として引き抜いてくるには、おそらくカルチャーの壁がまだ高い。よしんばつれてくることに成功しても飼い殺しになりそう。

考えてみれば新聞社のビジネスというのはオールドな紙と高齢な読者に支えられ、販売網と宅配員によって行動を制限されているという「イノベーションのジレンマ」にズバリ当てはまっています。典型例といってもいい。

なので、既存の新聞社が、自社の持つボトルネックにより読者に提供できていない情報というのはいくらでもあります。それはそのままビジネスチャンスとも言えます。

自分たちで彼らが欲しているバーティカルなメディアを、仕組みとある程度のトラフィック、コミュニティまで作った段階で新聞社に売り、彼らが持つ記者という資産をそこに投入してもらう。

僕は佐々木紀彦さんが言うような「編集者独立の時代」は確かに5年ぐらいでくると思います。しかし「記者独立の時代」はこのままではこない。年収1000万円超のプロ記者を雇えるネットメディア企業は今後も出てこない。なぜなら最初に書いたとおり、ウェブメディア単体ではそんな記者を抱えられる売り上げはたたないからです。

そこで、新聞社を補完するようなウェブメディアを作っては売り、そこに記者を投入してもらうことで紙からネットへの人材移動を作り出すことができるのでは、考えています。

同じメディア産業の中で、テレビ局の動きは速いです。キー局はVCを作り、ゲームの会社や動画技術の会社に投資しています。しかし彼らもウェブでウケるコンテンツも欲しいはずなので、例えばバイラルメディアを1つぐらい欲するかもしれません。そして今のところあまりコンテンツは持っていません。

ただしバイラルメディアはあまりにも参入障壁が低くてビジネスモデルが脆弱なので、やはりこれからやるにはおすすめではないです。真似しにくい、特定分野に絞ってコミュニティ要素の強いものを作るのがお勧めです。

経営が火の車である出版社も積極的なベンチャー出資をしています。

新聞社も早晩VCをつくり(朝日はもう持っていますね)、これからどんどんメディアを買っていくでしょう。朝日新聞の現金および現金同等物は約500億円、日経新聞社は約900億円です。これはどのメガベンチャーやテレビ局よりも多いです。


僕はおよそ1年弱、「日本でメディア・イノベーションがおきるにはどうすればいいのか?」と考えてきましたが、渡米前の中間報告として、ひとまずの答えとしては以上になります。

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