メディア・クエスター

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2014年04月

ブログを始めてちょうど1か月がたちました。
始める前は「こういう企画で誰か応じてくださるんだろうか」と不安でしたが、思った以上に反響が得られて自分でも驚いています。
これまでのところ、佐々木俊尚さん(ジャーナリスト)を皮切りに、瀧本哲史さん(投資家)・津田大介さん(ジャーナリスト)・梅田優祐さん(経営者)の4人にインタビューすることが出来、相談という形で堀潤(ジャーナリスト)さんと朝日新聞メディアラボのメンバーの方々のお話も伺えました。
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(4月15日、津田大介さんとの撮影)

まだまだ未熟ながらも、ここ1ヶ月を振り返る意味もこめて、「会いたい人に取材してブログに書く」というプロセスがいかに効率のいい学習方法かを説明していきます。

1.下調べに真剣になれる。

これまでお会いしてきた方々はみな各方面で活躍されていて、当然ながらものすごくご多忙でした。
そんな中でわざわざ時間をとって会ってもらう、しかも報酬などもお支払いできるわけではないので、せめていい質問をしなければ、相手に何か真新しいことを与えねば、というプレッシャーが働きます。

しかしこれは簡単ではありません。著名な方はインタビュー経験も豊富で、きちんと下調べしないと確実にネタがかぶります。
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そこで過去のインタビュー記事はなるべく読むようにし、著書にも全て目を通すようにしました。資料も漠然と読むのではなく「どういう切り口で書かれているのか」とか、よく使われるフレーズを認識していって「この人はここに拘りを持っているんだな」などとあたりをつける癖がつきました。

2. 生で1対1で話せるので、濃密な発見がある。

本や講義といった形式をとると、1人ないしは少数が多数に向けて発信するものとなります。そうするとどうしても内容は最大公約数的になりますが、それと比較して1対1で話す密度は段違いです。更には、公表されてないここだけの話も、聞けることがあります。

「東大新入生は新しいゲームを勝ち抜け」瀧本哲史さんインタビュー

の中で瀧本さんが

教授がどれだけ早口でしゃべったところで、自分でノートを読んだほうが圧倒的に速い
と仰っているように、ぼんやりと話を聞くだけなら読むのと比べてよっぽど効率が悪いです。ここで重要なのは、
自分の中で仮説を持っておくことでしょう。下調べに基づいて、「たぶん相手はこう答える」というイメージ像を作っておきます。

例えば僕の関心は「ネットメディアはビジネスとしてうまくいくのか、ジャーナリズムとの兼ね合いは可能なのか」です。取材対象が経済ニュースアプリ「NewsPicks」を出している株式会社UZABASEの梅田さんの時には、「梅田さんはビジネスとして上手くいくと考えてやっているはずだから、上手くいかないケースを挙げてみて、どう答えるかの反応を覗おう」などと考えます。

こうして仮説に基づいて相手に尋ねると、意外性の高い返答に出会うことがあります。それを見逃さず掘り下げていくまた新たな発見が……というようなサイクルが生まれます。この瞬間を味わうことこそ「話す」「聞く」ことの醍醐味ではないでしょうか。

3.音声情報と文字情報からのフィードバックが得られる

1と2については取材活動を始める前からそういう利点があるのではと思っていたことですが、この3についてはやってみて初めて気がつきました。
お話を伺ったあと、記事を書くために録音テープを聴きます。
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(flickr/ippinkan corp)

これをやってると、自分の相槌の打ち方のまずさとか、話の流れをきってしまうところとかが露骨に分かります。
なんでそんなに「なるほどなるほど」ばっかり言ってるんだ自分!というようなつっこみもよく入れます。
やっててめちゃくちゃ恥ずかしいです。恥ずかしいですけど、「ここで話の方向性を間違えたんだ」「ここでは黙っておくべきだった」などがありありと分かります。

何か特殊な活動をされている方以外は、自分の話し言葉を聞いて振り返る経験をつむことなんてまずないはずです。話し方を改善したい場合にはとってもおススメなやり方だということがわかりました。

音声での復習の後は、いよいよこれを文章にします。まとめる際には文章力とか構成を気にするので、もう一度話した内容について振り返れます。振り返りながら、自分なりの表現を探っていくことにもなります。

今のご時勢、仕入れた情報はどんどん流れていってしまい、僕もぼんやり読んで理解した気になったニュースとかは覚えていないことも多いです。

一方、みっちり下準備して仮設を立てる→生で話きく→音声情報から復習→文字情報でアウトプットをするという多方面からのアプローチで得られた情報はしっかり定着するストックになります。
何より、ここまでやると非常に楽しいです。

4.思いがけない出会いがある。

以上の過程を経て作った記事をブログに公開すると、ネットの世界に野ざらしにされます。どれだけウケたか、誰に読まれたかということがリアルな数字に表れてくるので、そのまま次に活きます。

そして、ブログで公開してみると意外な出会いが早くも沢山ありました。

投資家の五月さんが興味を持ってお話を聞きにきてくださったり、、新聞社の人に読んでいるよと言っていただいたりもしました。次の学習の機会も広がってくるのです。

これらはやる前からは予想もつかなかった、とってもありがたい成果です。


まとめると、高いモチベーションで準備できて、多方面から濃密な情報が得られる、という点で、今までやってきたどの勉強法よりも効率が良いです。


こうした「取材学習」とでも言うべきスタイルは、他のことにも応用できそうです。学問の興味ある分野について、その分野を研究している先生たちに取材するとか。趣味を突き詰めたくなったから、その分野で優れた人に会いに行って発表するだとか。


勿論、今回挙げたような利点を僕自身も完璧に活かせているとは言いがたく、準備不足を痛感したり、まずい作法をとってしまったと反省する日々ですが……。


これからも、会ってくださる方々に感謝しつつ、より実り多い取材学習となるよう進歩していきたいです。

先週インタビューさせていただいた津田大介さんが、「ツイッター創業物語」をおすすめしていました。
創業物語

僕は巨大IT企業のノンフィクションが大好きです。

グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ
スティーブン・レヴィ
阪急コミュニケーションズ
2011-12-16

フェイスブック ---子どもじみた王国
キャサリン・ロッシ
河出書房新社
2013-05-24


何が魅力的かというと、世の中を変えるサービスを打ち出した人々の内幕の人間模様が実に生生しく描かれているんです。ソーシャルの定義やコミュニケーションのあり方を一変させた企業の経営者がどこまでも人間臭かったり、アナログなところに妙な拘りがあったりするのってとってもツボです。

大抵主人公は偶然チャンスを得た天才的な創業者で、多くの人が価値に気付かない中、数人の協力者が天才を盛り立て、さまざまな壁を超えて圧倒的なサービスの浸透力で勢力図を塗り替えていく。でもそうした足元ではメンバーの力関係も目まぐるしく変わったりしていて、非常に人間的な衝突とか・和解とかを見ることが出来ます。

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(flickr/Anthony Quintano)

Twitterは特に好きなサービスなので期待ですね。

ところで、これらのドキュメンタリーを書いているのは、アメリカの著名なITジャーナリストが多いです。「ネット覇者の真実」は「WIRED」誌編集長のスティーブン・レヴィですし、「スティーブ・ジョブズ」のウォルター・アイザックソンは「TIME」誌の編集長をしてたこともあるジャーナリストです。彼らの長年の経験とそれに裏打ちされた深い洞察、そして関係者との広大な人脈が詳細な物語を与えてくれるのでしょう。サービスがローンチされる瞬間や念願のIPO前夜など1つ1つの局面に実際に立ち会っているかのような気分にさせられます。
いつか僕も、そうした文章をかけるようになりたい、と思うわけです。


日本だと、こうした創業物語は経営者自らが書いている印象です。古くはホンダとか京セラの創業物語は有名ですが、最近だとDeNAの南場さんも去年「不格好経営」を書きましたし(そしてやたらと配っていました)、サイバーエージェントの藤田さんや、おそらくもっとも有名なホリエモンさんも自著をどんどん書いてます。
不格好経営―チームDeNAの挑戦
南場 智子
日本経済新聞出版社
2013-06-11





これらを出版しているのは日経新聞だったり東洋経済新報だったりダイヤモンドだったり経済系のメディアですが、そうした会社が名物記者に任せてノンフィクションを書いたりしないんでしょうか。(そのあたりの業界の常識を、いまいち知りません。)本人では書けない会社・サービスの物語ってあると思います。

さて、いま日本で最もホットなIT企業といえば間違いなくLINE株式会社でしょう。

「LINE」サービス開始からわずか3年足らずで4億ユーザー突破という、日本企業において前例のないペースでグローバル展開が続いています。
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(公式資料より)
関係者に綿密に取材して、LINEの誕生秘話を本にすると間違いなく面白くなると思います。色々な意味で、他の国内外のメガベンチャーと歩んできた過程が異なるのです。

LINEというサービスを生み出したのは元NHN Japan。NHNは韓国の検索最大手企業です。ここの創業者の李海珍という人が自ら日本にきて進出を続けていましたが、5,6年もの間失敗の連続だったそうです。

そんな中、東日本震災が起きてコミュニケーションサービスの必要性を痛感して、ネイバー社内のコミュニケーションツールを改良して1か月半で作ったのが「LINE」だそうです。発想そのものはあったものの本当に急きょ作られたもので、事業計画にも書かれてなかったんだとか。
そうしたら爆発的にヒットして、当時流行りつつあったカカオトークや後発のcommを撃破し、日本人の代表的連絡手段として君臨することになりました。

また、現在日本で社長を務める森川亮さんは、テレビ局のエンジニア出身という面白い経歴をお持ちです。南場さんや楽天の三木谷さんのように外資系企業・MBA上がりの実業家とは大分毛色が違います。
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(MdN Design INTERACTIVEより)

はたしてLINEの誕生と成長は偶然の産物なのか、それとも起こるべくして起きたものなのか。必然だったとするならば、それを後押しした社内のカルチャーや、重要な時期に携わったステークホルダーはいったいどうした性質をもつものか。

会社としては、今夏に予定されている上場や、年内5億ユーザー獲得の目標に向かってWhatsApp&Facebookというグローバルの巨人との本格的な競争など、これからがヤマ場だと思います。
そんな近未来を占う意味でも、今こそ重厚なLINE誕生物語が読みたいです。




デジタルコンテンツを配信するピースオブケイクという会社が「note」なるサービスを始めました。

これは一口で説明すると"誰もが自由に表現をして、それに対して自由に有料課金できるサービス"です。

田端信太郎氏などメディア界隈の人々がこぞってこれに登録しだしたので、この流れを解説してみたいなあ……と考えてたところ、
「そうだ、ネットメディアの課金の流れは、進撃の巨人になぞらえて説明できるんじゃないか!?」と謎にひらめいたので今回の記事を書いてみました。

巨人=ネットメディアによる進撃の歴史

いいかんじの出版
(電子書籍情報まとめノートより)

1990年代後半まで、出版・新聞業界は平和に暮らしていました。
競争が激しいとは言っても、戦う相手は見えていて、慣れ親しんだものでした。
ところがそこにネットメディアという全く異種の"巨人"が突然あらわれたのです。
巨人の大群
(「進撃の巨人」アニメ版より)
これらはすべて無料であるとか、分量に制限がないなど、それまでの紙の出版業界の常識が全く通じないもので、(=巨人に知性は通じない。)とにかく大量に生まれました。
それでも最初は質が低かったり、ばらばらで有益なものが探しにくかったので脅威は薄かったのですが、情報をうまく編集するメディアが沢山登場して状況は一変します。
例えば「Googleニュース」さえ見ると、最新のニュースの一覧が読み比べられるという状況になりました。新聞社が手間隙かけて作ったコンテンツはアルゴリズムによって無料で並べられ、そちらに読者が流れたのです。
FacebookやTwitterによるシェアも本質は同じです。
こうして新聞・雑誌のコンテンツをネットメディアは駆逐していったのでした。
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(電子書籍情報まとめノートより)

そこで新聞社のオンライン版はそのコアとなるコンテンツ部分に”課金の壁”を築き、そこで暮らすことにしました。
日経新聞課金の壁
(日経新聞電子版より)
こうすればGoogleニュースにまわされることもありません。しかしこれによって得られる収入は今まで紙で得ていたものなどとは桁違いに少ないです。とても大勢を食わせていけるほどではない……。

調査兵団=既存マスコミの電子版による反攻

壁外調査
(「進撃の巨人」アニメ版より)
こうした状況に直面して、既存媒体の電子版が外の世界、すなわち無料文化とテクノロジーが支配するネット世界に飛び込んでいく動きもあります。
読売新聞社「発言小町」などはCGM(ユーザーがコンテンツを生成する場)として先進的な動きといえるでしょう。朝日新聞社も社内ベンチャーの「朝日新聞メディアラボ」を立ち上げ、講演会や勉強会を多く開催しています。
これはまさしく調査兵団ですね。しかし現段階での成果では、壁の中の業界人をすべて養うには程遠いです。

突破された「ウォール・動画」

3つの壁
(「進撃の巨人」1巻より)
さて、進撃の巨人の世界でも「3つの壁」があるように、メディアの世界にも課金の壁は多段階あります。
まず、様々なアダルトコンテンツが、動画という分野で既にネットコンテンツの課金に成功していることは周知の事実です。
ニコニコ動画も、プレミアム会員200万人以上を数え、繁盛しています。2005~2007年ごろに端を発したこうした流れにより、まずは「動画の壁」は突破されたといってよいでしょう。

主戦場となる「文章の壁」

次なる壁は「文章の壁」です。ネットの文章にお金を払えるのか?ということですね。
こちらに関しても、いくつかの成功事例が出つつあります。
例えば「vorkers」のような転職サイト。転職経験者の生の声が、部分的に明かされつつも続きは有料会員登録で、という「課金の壁」に覆われています。
ぼーかーず
(vorkersより)
MyNewsJapan」というサイトにも注目です。広告を一切載せないことで企業の内部批判記事などを有料で配信しています。月額1800円の会員を2千人以上抱え込み、黒字とのこと。

こうした付加価値が高く、集約された情報に関しては「文章の壁」も突破されました。cakesがもともと売り出していた"著名人の発信プラットフォーム"というコンテンツもここに位置づけられるものです。

ところが今回の「note」は、動画・音楽のみながらず文章に対しても個人単位で、自由に課金額も設定でき、その範囲も指定できます。このモデルが成功すれば更に1つ壁が突破されたといえるでしょう。

もちろん個人の発信に課金するという試みは別に「note」が初めてなわけではありません。
動画がはやりだしたのと時を同じくして2006年、有料メルマガブームというのがきていました。

有料メルマガをやめました 我が動員とマネタイズ敗北宣言-常見陽平

しかし上の記事にあるように、これで十分な収益をあげたのはホリエモン氏や佐々木俊尚氏などきわめて限定的でした。「金を払ってでも著名人の文章が読みたい」という読者は少なく、壁は超えられなかったのです。

それを踏まえて、今回「note」がどう壁を突破していくのか、あるいは突破できないのかは注目に値します。続きを読む



ウェブがいかに世界を変えたかを伝え続けたきた「WIRED」誌の、日本版創刊者の小林弘人さんによる一冊です。

本書のすごいところは、SNSやウェアラブルデバイス、オープンガバメントやシェア・フリーの概念、アップルの最近の動向までもが一貫した語り口で1990年代からの歴史の延長線上として描かれていることにあります。新書という体裁をとりながら、これらの概念を見事にわかりやすく説明しています。
読者の対象もさまざまで、ウェブへの興味がそんなにない人が読んでも面白いし、これからの企業でイノベーションを起こしていく方法にも触れられているからそこに注目する社会人にとっても有益にちがいないことでしょう。

さらにユニークな点としては、「人間中心主義」という言葉を用い、総合的には昨今の情報環境は人間を豊かにしているものと見通しているのがWIRED創刊者らしいです。

あらゆるもの情報がデータベース化され、それが肉体にまで及ぶ情報社会はしばしばSF小説でディストピアとして描かれます。
 
クラウド化する世界
ニコラス・G・カー
翔泳社
2008-10-10





ネット社会に警鐘を鳴らす「クラウド化する世界」では情報を一手に集めるグーグルなどのプラットフォーム企業が少人数で圧倒的な収益を上げ、多くの人から雇用を奪っていく未来も示唆されていました。

しかし本書は、一見情報を吸い上げて人間の体験を情報化された無機質なものにするとみられがちなECサービスやマッチングサービスが、実は人間らしい欲求をより多く満たすものとして機能していることを例に挙げて逆の未来を提示します。
例えば旅行先で泊まれる宿を探す人と空き部屋を貸す人をマッチングさせる「エアビーアンドビー」というサービスは、無機質なホテルの一室を借りるのでは得られない体験を提供します。これは貸し手側と借り手側の間に実に人間らしいコミュニケーションを促すのです。
「人間中心主義時代に販売すべきは"体験"である」という見出しにはそのエッセンスが代弁されているのです。

もちろん手放しのネット賛歌ばかりでぎっしり埋まっているわけではありません。ネットの性質としてその速すぎるスピードを挙げています。今の我々はYoutubeで動画が表示されるまでの5秒間すら待てず、広告をさしはさむ余地を与えしまう。それがネット疲れを生みます。
そのカウンターカルチャーとして、スローフードをもじった「スローウェブ」という風潮が紹介されていて、 これもまた「人間中心主義」、すなわちウェブによって人の体験の価値を引き上げる一つの流れとしておさえることも可能でしょう。

最終章ではこうした社会の流れをどういった視座で乗り切ればいいかが7つの視点から語られます。
ここで最も印象に残ったのが"検索できないものを見つけよう"というセンテンス。インターネットの外でしか得られない体験、知りえない情報に素晴らしい価値が生まれるというのもやはり「人間中心主義」の主張が根幹にある。
ネットでできないこと、得られない体験はこれからどんどん希少性を増すにちがいありません。
わけもわからずいい気分にさせてくれる凄腕の営業マンの口説き文句やセクシーな女性の誘惑といったものはインターネットに代替されるどころかますます威力を上げていくはずです。


まとめると、「人間中心主義」をキーワードに、ウェブ社会についてさまざまなことが学びとれるので非常におすすめです。

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(Twitterよりキャプチャー)

「君に友達はいらない」「僕は君たちに武器を配りたい」の作者である瀧本哲史さん
(京都大学客員准教授)に、東大新入生の意思決定について語っていただきました。



受験と大学生活は別のゲームであると理解せよ

――  本日は、東大を卒業されている先生に東大新入生に向けてのアドバイスをお話しいただきたいです。


瀧本 まず受験と大学生活、就活は非連続であるという前提を知る必要があります。大学入試というのは採点しやすいように答えが一意に決まっていて、時間をかければ誰だってできるようになるものです。だから時間の制限がある中で及第点に達することを目指すゲームです。

しかし、これからは違います。大学では自分で問いを立てて答えを探していかなければなりません。 みんながやっていることにとりあえず合わせるなんてしていてもダメです。もちろん、それで何とか凌ぐことも可能ですが、今度は就活、社会に出て、あるいは研究をしようとしたところで、より苦労することになります。

ここで、東大生にとって不幸なのは"進振り"があること。これは受験と全く同じゲームなので、こちらに最適化してしまうと、間違った方向で癖がついてしてしまうわけです。


大人数講義は"中世の仕組み"で、効率が悪い

瀧本   はっきり言って大人数の講義に出ても効率が悪い。大人数講義は、中世のボローニャ大学で、入学希望者が増えてきて教員の数が足りない、どうしようという問題に直面した時に編み出された知恵です。中世のイノベーションを現代でそのまま使っているだけで何の意味もない。だって、教授がどれだけ早口でしゃべったところで、自分でノートを読んだほうが圧倒的に速いでしょう。それに、教授が義務感でやっていて、研究成果がつながっていない、誰も満足していない内容の講義を聞くよりも、図書館に行けば名声の確立した教科書が必ずあります。特に本郷の図書館は学部ごとにあって専門書も充実しており、12年生も利用できるのでぜひ使うべきです。
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マスプロの授業が非効率なことは教員側も知っていますが、文科省が時代に追いついていないのです。実は、"出席点"というのは文科省的には本来認めないことになっている。というのも、全部授業に出るのは当然だろうと考えているわけです。

幸い、昔の東大生たちはこうした問題に対して"シケプリ"という制度を発明しました。この賢い先人達の知恵に乗っかりましょう。


では、そうやって捻出した時間で何をするべきか?ゼミはおすすめです。駒場にも全学ゼミナールという名称でいくつもゼミがあります。これは先生の趣味で開かれていることもありますが、それがゆえに逆にとても熱心ですし、少人数で実践的なものが多い。昔とっていたOBOGとの繋がりが濃いところもあってネットワーキングもできます。


サークル選びで考慮すべき3つの要素

―― 僕自身3年前に東大に入学したときは右も左もわからない青年でした。そうした学生にとって、サークルの選択は重要だと思います。サークル選びのアドバイスはありますか。


瀧本  考慮すべき要素は少なくとも3つあります。

まず、どういう分野であれ、強いサークルをおすすめします。というのは弱いサークルに入ると負け癖がついてしまう。東大には、ニッチだけど強いサークルというのがたくさん存在します。総長賞を獲った競技ダンス部とか、世界大会に出ているレゴ部だとか、奇術愛好会なんかもそうですね。

こうした団体には短期間でその分野で勝てるようになるノウハウが蓄積されていて、それを学ぶことの意義は大きい。

2つ目はインカレの組織であること。東大生以外と関わりを持っておく機会は貴重です。私が学生時代所属した弁論部は、インカレの組織にと連携していて、そこにはいろんな大学の人が集まってきていました。

3つ目は社会人とのかかわりを持てること。会いたいと思えばいろんな社会人に会えるのは学生の特権です。


――学生のサークルや部活での取り組みというのは、社会人からしょせん学生レベル」みたいに言われることもあります。一方で学生で起業してそのまま成功を収めるような学生レベルを超えた人もいると思いますが、その差はどこにあるんでしょう?


瀧本   普通の会社で社会人を数年やったぐらいで人はそれほど変わらないし、学生は本当はしょぼくなんてないですよ。要はチャレンジングな環境に早く飛び込めるかどうかの違いだけです。ただ、学生への期待、要求水準が低いというのはよいところもある。言い換えれば、なめてもらえるわけです。学生だから得られるチャンス、入り込めるところは結構あります。それを有効活用しない手はないですよね。


正解は自分で見つけるしかない

瀧本   いろいろと要素を挙げてきましたが、ここでも、やはり、全員にとって正しい答えなんていうのはない。多くの人がやっていることにとりあえず従うのと同様、私が言っていたから従う、とかは無意味です。同様に、取り合えず何かやっておかないと不安だからとりあえず、国家試験のために予備校に通おうとする人のことを、これからの官界なり法曹界が求めているわけでもない。受験までとは違う新しいゲームが始まったことを理解して、自分なりの答えを見つけていくしかないわけです。


―― 先生にとっての正解は弁論部だったかと思います。出会ったきっかけは何ですか?


瀧本   高校の同期のサークル訪問につきあったら、たまたま優秀な先輩に出会ったのがキッカケです。そして、その入りたがっていた同期は入部せず、関心がなかった自分が入部したという。。入学してみると、「東大生もこんな程度か」と失望することも多いかとは思いますが、優秀な人を見つけて、ついていくのも手です。そこに行きつくまでにはいろいろなところを回る必要もあるし、いわゆる"サークルジプシー"にも一定の意味があるんじゃないでしょうか。


――1年の時には出会えなかった人、わからなかった人もいると思います。特に地方出身者には情報がない。実際僕が今所属している競技ダンス部見つけたのも1年生の終わりの時期です。そういう人はどうすればいいでしょう?


瀧本   出遅れる人が多数派です。気付いた時点で、自分で意思決定していくしかないですね。大事なのは以前に行った意思決定による投資に固執ないこと。これを経済学では「サンクコスト」と呼びますが、サンクコストに縛られて不本意なのに方針を変えないとかはもったいない。


瀧本ゼミはあるべき大学教育の一ケース

―― 僕自身もゼミ生なんですが(笑)、改めて、先生が開催されているゼミの目的をお伺いします。


瀧本   もともと京大で持っている「起業論」の授業を一コマ駒場でやったのですが、そのゼミ生から、授業が終わっても引き続きゼミをやって欲しいという要望があって、京都でもやっている「企業分析」を行う自主ゼミを開きました。東大はパブリックセクターに関心を持つ学生も多いので、企業分析に加えて、「政策分析」の自主ゼミも作りました。どちらも、答えがわからないものをリサーチするという手法は同じです。ニッチなテーマですが、コンテストで優勝したりして強いサークルといって良いでしょうし、慶応医学部の人が入っていたりとインカレであり、実際の一流のファンドマネージャーや政策担当者を審査員に招いたりと社会人との接点があるという要素は先ほどサークル選びの三要素は充たしています。


同時に、瀧本ゼミは、サークルとしてだけではなく、所属する組織一般としても卓越した場にしたいと思っています。私はよく「どういう会社がおすすめですか?」と聞かれるのですが、その時にみはらしが良く、ブートキャンプ(アメリカの軍隊の新兵訓練施設)的なトレーニングで鍛えてくれる場所であり、クラブ的であることを挙げています。要は、世の中を幅広く観察し、徹底的に学ぶ場であり、その苦労をともにした仲間のネットワークが長く続く組織ということです。瀧本ゼミは、これらの条件を充たすように設計しました。最初の話に通じますが、あるべき大学教育の実験モデルとして実践しているつもりです。

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「東大でもこんなもんだ」で終わらせない

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に何か一言いただけますか


瀧本   東大に入る価値のひとつは、「東大でもこんなもんだ」と思えることです。入れなくて後々までくやしがったりすることは生産的ではないです。そうした後ろ向きなことを考えないで良いことは大きいですね。ただ、「こんなもんだ」と思う人の大部分は、東大の価値を十分に味わっておらず、もったいないこともあると思います。例えば、理系に限られますが設備ひとつとっても、学費を考えればあり得ないぐらい恵まれています。しかし、東大の価値はそういったわかりやすい目に見えるものと言うよりも、日本、あるいは世界の知的あるいは人的ネットワークと繫がるハブとして最も優れている場の一つだということだと思います。機会があってもその価値がわからない人には、活用できません。宝の山に入って、手ぶらで帰ってくることだけはないようにして下さい。


瀧本哲史。京都大学客員准教授、エンジェル投資家。
東 京大学法学部卒業後、学卒で助手(現在の助教)となるも、外資系コンサルティング会社マッキンゼーに転職する。3年で独立して、投資業、コンサルタント、 評論活動など幅広い活動を行う。現在はエンジェル投資家のかたわら京都大学で意思決定理論、起業論、交渉術の授業を担当している。

 ※こちらの記事は東京大新聞オンラインに寄稿したものの転載です。


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