リフォームやインテリアなど「住」関連情報を雑誌のような記事形式で届けるメディア「iemo」と、
ファッション・メイク・コスメなど女性向けの「衣」関連記事を提供するメディア「MERY」。
これらの運営会社を10月1日に総額約50億円で買収したDeNAが、食卓のアイディアを伝える「食」関連メディア「CAFY」を開始しました。

DeNA、食のキュレーションプラットフォーム「CAFY」の提供を開始

買収先の創業者である「iemo」村田マリさんを執行役員に加え、社長自らが「ゲーム事業と同価値を目指す」と語った「キュレーションプラットフォーム事業」の第一弾となります。

DeNA守安社長インタビュー【後編】「キュレーションプラットフォーム事業はゲーム事業と同価値を目指す」 

これまで「衣」、「住」ときていたので次は「食」メディアを設立ということ自体は何の驚きもない極めて自然な流れですが、もう少し大局的に見ましょう。「キュレーションプラットフォーム」という言葉には、IT企業にありがちな横文字の組み合わせでなく、もっと重要な意味が込められている可能性があります。単なる「プラットフォーム」とは一線を画しているのです。

ただの「雑誌の代わり」じゃない

買収される前、iemoを運営していた村田マリさんは、雑誌のリプレイスがやりたいと言っていました。
。広く見れば、昨年DeNAが始めて600万DLに達した漫画読み放題アプリ「マンガボックス」はマンガ雑誌のリプレイスだし、少なくとも去年からDeNAはこの戦略を構想していました。要するに紙の雑誌を読む代わりにネットで、とりわけスマホを使って読むようにさせたいということです。

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(引用元:http://www7b.biglobe.ne.jp/~yama88/info_2.html)

しかし、繰り返し引用してきたこのグラフ、もはや説明不要ですが雑誌の市場規模は恐ろしい勢いで落ちていく一方です。この市場の一部分を何割か代替したところで、目下売り上げ高2000億超のDeNAの「次の柱」足り得るのか?

ここで、「なぜ雑誌が売れなくなっているのか」という根本的な問いに戻りましょう。一番ポピュラーな答えは「ネットに可処分時間を奪われているから」でしょう。じゃあネットを使って皆何をしているのか?それは「ゲーム」だったり「SNSでのコミュニケーション」だったりしますが、「読み物」にも相当時間を割いています。ほとんどが無料でしかもどこでも読めるため、雑誌の需要を直接奪っているのはこれでしょう。
では、みんなネットで何を読んでいるのか?とりわけ「iemo」「MERY」「CAFY」のように分野をしぼって専門的な情報が得たい場合は?

ブログで情報を得るという人もいるでしょうが、多くの分野で中心は情報「プラットフォームサイト」ではないでしょうか。要するに、レストランを探したかったら「食べログ」や「ぐるなび」を使い、レシピが欲しければ「クックパッド」、就活情報なら「リクナビ」「マイナビ」、不動産関連なら「SUUMO」といった具合に。

ここで、「食べログ」や「リクナビ」はメディアなのか?という問いが生じます。これらのサイトは基本的に広告出稿料のもとで中立に情報が集められます。ユーザーはそれを見て口コミを書き込んだりと参加できますが、サービス提供側、つまり食べログをやっているカカクコムやリクナビをやっているリクルートは恣意的な関与を避けます。サービサー側の記者がおすすめの企業を書く「リクナビ」はありません。「プラットフォーム」の本質は無味乾燥な中立性、情報の集約にあります。もちろん既存の雑誌の中にもそういう類のものはありましたが。

しかし「キュレーションプラットフォーム」は違います。キュレーションとは「編集」のこと。「iemo」では、(その意思決定の過程にアルゴリズムの関与があるにせよ)編集部側が恣意的に見せたいリフォームや、インテリアの記事をライターに書かせて提供します。「CAFY」もきっと食の分野でそうなることでしょう。見せたい情報を切り取って読ませる。この方が「メディア」だと僕は思います。

「キュレーションプラットフォーム」は単に紙の雑誌を代替するだけでなく、それらから市場を奪っていた情報「プラットフォームサイト」からある程度市場を奪い返すのではないでしょうか。リクルート単体だけでも「販促メディア事業」と「人材メディア事業」(そうリクルートは「メディア」だと言っています)で計5892億円の売上げがあります。こう考えると確かに一大市場ですし、iemoとMERYの買収総額50億円という規模にも納得がいきます。

プラットフォームからメディアの時代へ

ではなぜ今になってDeNAがこの市場を開拓しにきたか。それはネットビジネスの趨勢を追えば必然と言えるかもしれません。

すなわち、これまでのネットビジネスはどこもとにかく「プラットフォーム」を獲るための戦いでした。一番初めにユーザーを大量に獲得して囲い込んでしまえば分野ごとに一番になれる。プラットフォーム側は莫大な利益を稼ぎ、それに従属したサービスは買いたたかれます。後発の戦略は「より分野をしぼる」や「ビジネスモデルを凝らす」でした。例えば人材領域においてはリクナビシリーズを有するリクルートが長らくトップでしたが、転職領域に隙間を見つけたリブセンスが「成功報酬型」という巧いビジネスモデルを組んで参入に成功しました。そういうことがあらゆる分野で起きています。

しかしプラットフォームを巡る戦いは疲弊してきました。究極的な頂点に立つプラットフォームはGoogle,Apple,Amazon,Facebookにしぼられ、下位のプラットフォームは目先の「ビジネスモデル合戦」でつぶし合っても、より上位のルール変更によって容易につぶれます。先ほど例にあげたリブセンスは、Googleからの検索流入に頼り切ったため、その検索システムの変更のあおりを受けて大幅に減益しました。

そして多くの分野でビジネスモデルも発明しつくされてきた感があります。そんなことないと言う人もいるかもしれませんが、ユーザーにとって価値のある差異が生めるほどでしょうか?最初に首位を獲れば圧倒的に稼げたはずのプラットフォーム競争は、いつの間にか差別化の難しいコモディティ競争になってきたのではないでしょうか。それもそのはず、本質が単なる情報の集約でしかないなら、技術力以外で差異化は困難です。

そこで「コンテンツ」の出番というわけです。恣意的な「編集」で情報を切り取り、書き手が主観も凝らした「分析」などの付加価値を提供することで他のプラットフォームとの差別化が実現します。
今後プラットフォームが行き詰まるほど、専門的な分野で、編集がいる・書き手がいるといった意味で「メディア」の黄金時代が来うるのではないでしょうか。
それは、ネットを使ったメディア消費に質的な変化が生まれるということを意味しそうです。