「モノを持たないネットメディアに勝ち目はない」瀧本哲史氏が語るメディア業界
次はスタジオジブリを買収?瀧本哲史氏が見る、ドワンゴの戦略性

ベストセラー「僕は君たちに武器を配りたい」などの著者でもあり、エンジェル投資家を本業とする瀧本哲史氏がメディア業界について鋭い持論を展開していくこのシリーズも最終回となる3回目を迎えました。 今回は依然として大きい、既存メディアの強みについて語っていただきました。 

話し手=瀧本哲史氏(以下、瀧本と表記)

聞き手=大熊将八(以下、大熊と表記)

takimoto
(BLOGOSよりキャプチャ) 

新聞社経営は、実はアメリカが日本に追いついただけ

大熊 前回、いいコンテンツを創るにはお金をかけるか、ミスプライシングされている分野を探すことだというお話を伺いました。それでは、お金をかけていいコンテンツを創っても儲けに直結しない、ジャーナリズムはこれからどうなっていくんでしょうか?ビジネスモデルを創れなければどんどんかけられるお金が削られ、コンテンツは劣化していくのでしょうか。

瀧本 これもだいたい答えが出ているのではないかと思います。アメリカではAmazonのCEOであるジェフ・ベゾスが、趣味でワシントンポストを買ったでしょう。基本どこもああなるんじゃないですか。

大熊 確かに、他にもニューヨーク・タイムズなどメディア企業に出資しているナイト財団などがアメリカのジャーナリズムを支えています。でも、日本では寄付文化が根付いておらず、大きな財団も少ないです。稲盛和夫さんや孫正義さんが新聞社を買うようになるか、というと疑問です。nyt
瀧本 実は、大手新聞社は不動産収入がメインになっています。見方を変えてみれば、不動産王が新聞社を持っている、と考えたら?アメリカの動きは実は日本に追いついただけといえるかもしれません。

ところが、日経は不動産はなく、本業で勝負しなければならないので、収入の多様化としてのデジタルに最も熱心で日経テレコンとかデータベース系の収入が実は大きい。ネット証券への卸売りとか考えると、ここでもアメリカが先行していると、単純には言えません。 

出版は大手こそ面白い業界

大熊 なるほど。ここまでのお話全体を通して、出版であろうと新聞であろうと、やはり大手メディアは強く魅力的だ、というのが伝わってきました。

瀧本 結局「メディア」って編集者1人では作れないんですよ。流通が非常に大事です。私はほとんどの本を講談社から出していますが、なぜ講談社とやるか?の答えにもなっていて、全国津々浦々に物理的な流通網やプロモーションのネットワークを持っているのは講談社他せいぜい数社なのです。

どの業界でも、既存のブランドはとても大事ですよ。私は学生時代にマッキンゼーのほかにボストン・コンサルティング・グループとブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現プライスウォーター・ハウスクーパース)という3社のコンサルティングファームでインターンをしたんですが、そのときとても衝撃的なシーンに出会いました。
トップ・ティアに属さないブーズでのことです。社員がインタビュー依頼の電話をしていたのですが、自社を誰も知らない。なので、「マッキンゼーやボスコンと同じ業界でして……」とわざわざ説明する必要があり、その結果、インタビューをとるにも苦労する。   

大熊 最近いろいろな場面で既存大手メディアの質の劣化がうたわれているし、さまざまな改革もあまりうまく行ってないという認識でした。けれど、ダメな人が沢山いても少数の優秀な人だけで支えていける仕組みがあるから大企業なのだ、という話をふと思い出しました。イケてない社員がいるからといってその会社や、やっているビジネス自体がダメというわけではないんですね。 

瀧本 大企業はお金があるうちにいろいろとやっていけばいいんです。 それにメディアってネットワークのハブというビジネスなので、大企業が圧倒的に有利です。  

大企業の中でも手堅くやるのが是とされる業界の会社は、腐ります。たとえば銀行業は世界的に見てもメガプレーヤーが厳しかったりします。

出版は、もともとカタイことではなく、色々新しいことやった方が成功する業界だから大きいところに行く価値はあると私は思いますよ。 


大熊
 これからネットメディアの挑戦に関わる僕にとっては耳の痛い話です。ただ海外では、もともと既存大手が日本ほど強固に流通網を押さえていなかったという背景もありますが、新興ウェブメディア企業が沢山生まれて時価総額10億ドル超えのところも出てきています。現地に行って学んできて、日本でもメディアの新しいビジネスモデルが創れないか、見届けてみたいんです。


瀧本
 まぁ、常識にチャレンジするところから、イノベーションは始まるので、是非、頑張って下さい。私も業界の人から反対されるコンセプトに投資してきていますので。

____________________________________________________________________

インタビューを全体を通して、徹底的に既存メディアの強みをロジカルに示した瀧本氏。
しかしその発言の中には、今は既存メディアに惨敗しているウェブメディアが勝機を掴むヒントがちりばめられているようにも見えました。
いずれにせよ、これまでにない視点で語られた「メディア業界論」となりました。

 

瀧本哲史。京都大学客員准教授、エンジェル投資家。

東京大学法学部卒業後、学卒で助手(現在の助教)となるも、外資系コンサルティング会社マッキンゼーに転職する。3年で独立して、投資業、コンサルタント、 評論活動など幅広い活動を行う。現在はエンジェル投資家のかたわら京都大学で意思決定理論、起業論、交渉論の授業を担当している。