「ネットだけでは永続性がない、モノを持たねば」っていうのは、2000年ぐらいには一旦結論が出ている話だと私は思っています。

「モノを持たないネットメディアに勝ち目はない」瀧本哲史氏が語るメディア業界

瀧本哲史氏がネットメディアの弱点を徹底的に突いていった前回。
今回は稀有な成功例としてのドワンゴの「ニコニコ動画」と、質の高いコンテンツの創り方について語っていただきました。

話し手=瀧本哲史氏(以下、瀧本と表記)
聞き手=大熊将八(以下、大熊と表記) 
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ニコニコ動画がうまくいった理由

大熊 ウェブだけでは独占を作れず苦しいという話がわかりました。しかし「ニコニコ動画」は、ウェブ発のコンテンツでここまでの規模に成長し、独自の立ち位置を築けています。その成功要因は何だったのでしょう?

瀧本 新興ウェブメディアは結局、
CGMパブリックドメインがメインですよね。その中で、コンテンツとして強いのに市場化されていなくて、テレビが突っ込んでこなかった領域としては、サイエンス・政治・大学あたり。そこに行ったのがドワンゴです。 川上会長は戦略級のボードゲーム好きな人ですから、インタビューではのらりくらりしているように見えても、相当先まで考え抜いていると見るべきでしょう。

次はスタジオジブリを狙ってる?

瀧本 ドワンゴは典型的な"わらしべ長者"戦略だと思います。

ドワンゴは着メロ配信サービスからスタートして、潤沢なキャッシュフローの源を作りました。この資金を使って、着メロ配信が廃れる前に次のビジネスに投資しします。これがニコ動ですね。ここが、先日経営破綻した、インデックス・ホールディングスとの違い。ニコ動も最初は違法動画配信が結構重要なコンテンツでした。そこから成長してユーザー数が増えると一気に違法配信を追い出してCGMとして成り立たせました。ネットビジネスのプラットフォームとして一大勢力になった。そして、この力を活用して、出版業に参入した。それも、超一流の角川です。インデックス・ホールディングスは、オーエス出版の買収ですから雲泥の差です。これはあくまでも憶測ですが、次は、スタジオジブリも射程に入ってくるのではないでしょうか。

大熊 川上さんは現在、ジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんのもとへ"見習い"として修行にいっていますね。

瀧本 これはある種の地均しで、当然、買収も考えていると思います。ライバルは、ディズニーかな。業界では「宮崎駿後」を意識する人もいて、ジブリをディズニーが買うのではないかいう人も結構います。アメリカでは、スタジオや出版社の買収が日常化していますし、ディズニーはABCESPNテレビ局や、コミックのマーベルなども持っているメディアコングロマリットなので。

ここからは、さらに憶測の度合いが増しますが、出版の次はテレビも視野に入ってくると思います。ドワンゴとKADOKAWAの時価総額が拮抗するタイミングで、経営統合が行われました。今後、ネットサービスの株価に成長性プレミアムがつく一方、逆にテレビ局の株が景気敏感の循環銘柄かつ不動産株、そしてコングロマリットディスカウントということで、資産ベースの価格に近づいていくタイミングはあると思うので、テレビ局との経営統合も、充分あり得るシナリオだと思います。

あとは、ドワンゴの資本政策というか株主構成を見ているといろいろ興味深いことがわかりますね。
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(株式会社ドワンゴの2013年9月期の有価証券報告書より。エイベックスが6.04%、日テレとNTTが4.99%保有)

ドワンゴは、先ほどの、「ネットではなくモノ」もやっています。「ニコニコ動画」というウェブ上のコンテンツにとどまらず、リアルイベント「ニコニコ超会議」に先行投資しています。非常に戦略性を感じます。
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金をかけずにいいコンテンツを創る方法

大熊 ドワンゴのコンテンツの創り方、企画の仕方は本当に巧いですね。いろいろ見習えるところがありそうです。

 
瀧本 金をかければいいコンテンツになるわけではありませんが逆は真で、いいコンテンツを創るのには金がかかるんです。 金をかけずにいいコンテンツを創るには、ミスプライシングを探すしかないですね。

 
講談社が立ち上げた新レーベルである星海社も、「大学教員」という、今まで値付けがされていない著者に目をつけていました。若手の大学教員は研究という採算度外視の活動を仕事にしていますから、コスト度外視でいいコンテンツの種を創っています。これを市場のニーズに合うように編集するわけです。こうすれば、打率は高くなります。

大熊 古市憲寿さんのデビュー作が修論なように、人文系の修論・博論が多く出版されているのも同じ構造ですか。


瀧本 その通りです。採算無視で作られているところがポイントです。「経営者本」とかも似た構造があって、その人の人生ないしものの見方というコンテンツが、本業で生産されてすでに回収が終わっているわけです。本業がダメで、ビジネス書専業作家化した経営者が、会社もコンテンツもオワコンになるのは、コンテンツだけで採算を作ろうとするから無理が出るわけですね。

回収が終わっているという意味では、歴史や古典を参照するのもありますね。ハリウッドが「ノアの箱舟」とか「ギリシャ神話」とか古いSFを使うのもそれですね。古くは、「源氏物語」も漢文の影響あるし、「ハリー・ポッター」でも「ナルニア国物語」の影響は少なからずあるだろうし、「ナルニア国物語」自体は聖書の強い影響にありますね。
「指輪物語」も作者のトールキンが古英語文学の「ベーオウルフ」の研究者であった影響が多く見られる。
なお、ナルニアのルイスとトールキンはインクリングズという自分たちの作品を元に討論するグループで繫がってたわけですが、こういった私的で非経済的なネットワークもある種採算無視の源泉ですね。インクリングズはオックスフォード大学にあったわけで、ここでまた大学の価値を感じますね。


                                                                                                                                               (つづく)



依然大手メディアこそ圧倒的に有利でプレーヤーとしても面白い、という瀧本氏の持論を語っていただいた最終回については、7/29に掲載予定です。

瀧本哲史。京都大学客員准教授、エンジェル投資家。

東京大学法学部卒業後、学卒で助手(現在の助教)となるも、外資系コンサルティング会社マッキンゼーに転職する。3年で独立して、投資業、コンサルタント、 評論活動など幅広い活動を行う。現在はエンジェル投資家のかたわら京都大学で意思決定理論、起業論、交渉論の授業を担当している。